VERA観測局現れる

VERA(天文広域精測望遠鏡)は、平成11年度補正予算によって岩手県水沢市・鹿児島県入来町・東京都小笠原村に観測局の予算が認められ建設に着手しました。VERA観測局は世界初の2ビーム機構を有する口径20mの電波望遠鏡とそれに付帯する22GHz,43GHzの受信機、1GHzの高速サンプラと磁気記録装置を含むバックエンド、水素メーザなどによる時計装置などから成ります。また既存三鷹相関局のVERA対応の改修などが必要でした。さらに必要な観測棟などの付帯施設も整備され、VERAの上記3局が本年3月に無事、完成しました。各担当メーカーおよび天文台関係者・鹿児島大学関係者の努力の賜物とたいへん感謝しています。

VERAは、電波干渉計のなかでもVLBIという観測手法によって観測する装置です。VLBIというのは、遠隔の電波望遠鏡で受信された信号をテープ上に記録し、それらを相関局に持ち込んで干渉信号を得るもので、干渉縞を得るために1マイクロ秒程度の正確な観測時刻と10-12程度の時間精度を必要とします。しかしこの精度をもってしても、局内の遅延誤差や時刻の誤差また大気による天体信号の伝搬長のゆらぎによる誤差によって干渉縞の位相はゆらいでしまい、それが天体の位置計測の精度を劣化させていました。言い方を変えれば、2つの観測局で天体からの電波の到達時刻の差を正確に測定しても、観測局の上空の大気によって到達時間がゆらいでしまうために測定の精度が上がらないというのが従来の観測でした。これを近傍の2つの天体からの電波を同時に観測することにより、2つの天体の大気による到達時間差の影響は同じであると考えて、相互の天体で得られた到達時間差を差し引くことで誤差を補正し、正確に天体の方向を測定するのがVERAの大きな独自性です。VERAの観測局間隔は最長2300km(水沢局-石垣島局)になります。この基線で天体からの受信信号の到達時間差を50ミクロンの精度で計測すれば角度になおして5マイクロ秒角の精度になります。観測は最大基線のみで行うわけではありませんので、典型的には10マイクロ秒角の精度を目標にしています。10マイクロ秒角というのは、月面の10円玉の大きさに匹敵する精度です。つまり月面の10円玉1つ分天体が動いたら、それを検出する精度であるということになります。この精度で我々の銀河系内の天体の位置を精度良く求め、地球が太陽のまわりを公転することによる天体の見える方向の違いによって三角測量の原理を用いて天体の距離を求めることができます。これで銀河系全域にわたって10%の誤差で測量を行うのがVERAの大きな目的です。それによって銀河系の立体地図や運動が詳細に観測できます。

さて、このようなVERAのアンテナですが、平成11年度の予算によって水沢局・鹿児島局・父島局の建設が認められました。平成12年の4月に入札が行われ、アンテナを始め、受信機・デジタルバックエンド・磁気記録システム・基準時計装置・相関処理システムなどの担当業者が決定されました。その後1年間をかけて3つの局の建設を開始しました。アンテナは、最大離角2度の2つの天体を同時に観測するために受信機を焦点面上に沿って駆動する必要があります。そのために「すばる」で開発されたスチュワート・プラットホームという構造が採用されました。「すぱる」のものよりずいぶんと大きなものですが基本的な考え方はおなじものです。

これは6本のジャッキの長さのみを制御することにより並進・回転の運動を行うもので、自由度の大きさ・試験の考え方の単純さという利点があります。これの駆動精度・自重変形などの測定は、厳冬の丹波篠山の工場で行われ、出荷ぎりぎりまで測定・精度の検証を行いました。またVERA観測局では2ビームでの観測を行うために受信機・バックエンドなどは基本的には通常のVLBI観測局2局分のものが必要になります。したがって通常のVLBI局6局分の製作が並行して行われ、各担当メーカーともにこのような多数のセットを同時に製作したことははじめてのことであり、所要性能の達成と納期を維持することはたいへんなことでした。またアンテナの現地設置工事においても、水沢局では15年ぶりの豪雪に悩まされ、小笠原局では離島での建設の困難さがあり、特に資材の輸送計画で特段の配慮が必要でした。また入来局では秋の長雨に悩まされました。しかし担当業者の方々をはじめ天文台の研究系・管理部の各担当者そして鹿児島大学の仲間たちが一丸となって設計・製作にあたり、電波望遠鏡本体と観測棟を平成13年3月に完成させることができました。また地元で協力をしていただいた関係者にも厚くお礼を申し上げたいと思います。

先日、VLBA計画(アメリカで口径25mのVLBI観測局を10局有するプロジェクト)の建設に参加した研究者に会い、VERAは3局を1年で完成させたことを話すと、まさに驚異的なことであると驚かれました。スペースVLBIを世界で初めて成功させた時もそうでしたが、日本の研究者とメーカー技術者の連携が見せた底力であると思っています。

さて今後は、最後の仕上げ石垣島局の建設があります。これからは我々研究者がシステムを立ち上げて、観測・成果に結びつけていかなければなりません。まずは今年度内にフリンジを検出することを大きな目標にして行きたいと考えています。欧米では、衛星を用いた高精度位置天文学衛星の製作が進められています。VERAは唯一、銀河系全体を見通すことのできる高精度位置天文学の装置ですが、これらに決して遅れをとらぬようチーム一丸となって進めて行きたいと思っています。

「国立天文台ニュ-ス No.96より転載」<電波天文学研究系 助教授 小林 秀行>

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