日韓VLBIネットワークKaVAによる星形成大規模観測プログラム初成果:高速ガス流を噴き出す巨大な赤ちゃん星たちの姿に迫る

大質量星の形成プロセスが小質量星の形成プロセスに似たものなど大質量原始星周辺の複雑な環境を、KaVAとアルマ望遠鏡による観測により初めて明らかにしました。水沢VLBI観測所が中心となり国立天文台が運用するVLBIプロジェクトであるVERAと韓国天文研究院が運用するVLBIネットワークKVNとの共同研究となる大規模観測プログラムのうちの一つで「KaVAを用いた水メーザー・メタノールメーザー観測による大質量星形成機構の解明」プログラムの最初の成果です。


太陽の8倍以上の質量を持つ恒星を大質量星と呼びます。生まれて間もない大質量星にあたる大質量原始星の観測は、その誕生メカニズムの解明に重要な手掛かりとなります。しかし大質量(原始)星は太陽のような軽い星、小質量星に比べ数が少なく、太陽系から遠く離れた場所が主な観測対象となるため、高い解像度や感度の観測が求められ、その誕生メカニズムには未解明の問題が数多くあります。その解明は、強い放射や超新星爆発を伴う重元素の放出など、恒星や惑星の誕生、また銀河の進化において重要な役割を果たす大質量星を知るために必要不可欠なテーマです。


今回観測に用いたKaVA(KVN and VERA Array)は、国立天文台が運用するVLBIプロジェクトVERA(VLBI Exploration of Radio Astrometry)と韓国天文研究院KASI(Korea Astronomy and Space Science Institute)が運用するVLBIネットワークKVN(Korean VLBI Network)の両者を組み合わせたVLBI(Very Long Baseline Interferometer/超長基線電波干渉計)観測網です。

KaVAの共同研究である大規模観測プログラムの一つとなる「KaVAを用いた水メーザー・メタノールメーザー観測による大質量星形成機構の解明」プログラムは、「大質量星にはどのようにして周辺から大量のガスが集まってくるのか」「大質量星が生まれる際に噴出される高速のガス流(アウトフロー)や、その中心に存在すると予言される回転ガス円盤がどのようにして形成されるのか」という謎の解明を目指した系統的な研究を進めています。


アルマ望遠鏡による観測から、G25.82-0.17で生まれたばかりの大質量原始星G25.82-W1は太陽の25倍以上の質量を持つことが分かるとともに、生まれる前の高密度なガスも見つかり、形成途中の大質量星団であることがわかりました。また毎秒50kmで吹き出すガス(アウトフロー)や回転するガスの存在も確認され、大質量星の形成メカニズムが太陽のような小質量星の形成メカニズムに似ていることが示されました。

KaVAによる観測から、アウトフローの根元付近となるG25.82-W1の極めて近傍に複数の電波源(水メーザー)の存在が確認されました。この結果は、今後、アウトフローの機構解明という星形成の大問題を解き明かす重要な手掛かりになります。


この成果は、KaVA大規模観測プログラムが大質量星形成の詳細な研究に威力を発揮することを示した重要な成果です。今後、東アジア地域のVLBI観測網として広がりを見せるEAVN(East Asia VLBI Network/東アジアVLBIネットワーク)による共同研究として、さらなる発展が期待される成果です。


この研究成果は、“Multiple Outflows in the High-mass Cluster-forming Region G25.82–0.17”として、米国のAstrophysical Journal2020年6月20日号(ApJ, 896, 127(10pp))にて出版されました。




リリース原文:
日韓VLBIネットワークKaVAによる星形成大規模観測プログラム初成果:
高速ガス流を噴き出す巨大な赤ちゃん星たちの姿に迫る


原著論文:
“Multiple Outflows in the High-mass Cluster-forming Region G25.82–0.17”


関連するウェブサイト:

他機関でのリリース:
2020.8.5更新

CSS not active

JavaScript not active