日韓合同電波望遠鏡群で探る巨大ブラックホールジェット 〜見えてきた「超光速噴出流」の現場〜

研究の背景

 

図1. 活動的な巨大ブラックホール周辺の想像図(クレジット:国立天文台/AND You Inc.)


これまでの研究から、多くの銀河の中心部には太陽の数百万倍から数十億倍の質量を持つブラックホールが存在することがわかってきました。ブラックホールは強い重力によってあらゆる物質を吸い込み、光さえ脱出できない天体として有名です。ブラックホール自体は輝きませんが、吸い込まれる物質の重力エネルギーが転化することで、その周辺では様々な活動現象が起こっています。これらの現場を直接観測することはブラックホールの性質や活動性を解明することに直結するため、宇宙物理学における最重要テーマの1つとして活発に研究が進められています。

 一部の巨大ブラックホールはその活動性が極めて激しく、物質を吸い込むと同時に強力な「噴射」もしていることがわかっています(図1)。「ジェット」と呼ばれるこの現象は、電離したガス(プラズマ)噴出流が細く絞られた形状で光速に近い(最大99%を超えることもある)速度で数千〜数万光年にも渡って宇宙空間を突き進む宇宙最大級の高エネルギー現象です。宇宙に存在する巨大ブラックホールの約1割が、このような強力なジェットを伴うことが知られています。

 しかしながら、巨大ブラックホールの強力な重力を振り切り、いかにしてジェットが形成され、光速に迫る速度まで加速されるのか、その詳しいメカニズムは未だ解明されていません。巨大ブラックホールからのジェット噴出は現代天文学における最難関の問題の1つとされています。近年ではコンピュータシミュレーションの進展により、理論的にはブラックホール自身の自転(スピン)やその周辺に存在する磁力線構造の関連が示唆されていますが、定説が確立できないまま、既に半世紀近くに渡り論争が続いています。この難問の解決へ向けて、ブラックホール近傍である、ジェットが噴出されて間もない現場での運動の様子を実際に観測によって明らかにする必要があります。

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