日韓合同電波望遠鏡群で探る巨大ブラックホールジェット 〜見えてきた「超光速噴出流」の現場〜

M87(おとめ座A):最近傍の巨大ブラックホールジェット

図2:ハッブル宇宙望遠鏡によるM87から噴出しているジェットの可視光画像 (クレジット:NASA and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA))


私たちは今回、地球から5440万光年離れたところにあるM87銀河に着目しました。M87はおとめ座銀河団の中心部に位置する巨大電波銀河で、その中心には太陽の60億倍という宇宙最大クラスの質量を持つ超巨大ブラックホールがあることが知られています。これまでハッブル宇宙望遠鏡などを用いて、中心核から約5千光年に渡りビーム状のジェットが光速の98%以上の速度で運動している様子が観測されています(図2)。近年はVLBI観測(後述)の進展により、ジェットの根元の構造がブラックホールの直径の10倍程度を切るという極めて高い解像度で空間分解され始めており、「巨大ブラックホールジェット研究のロゼッタストーン」として世界中のブラックホール研究者が現在最も注目している天体です。ちなみにこの天体は、今から約100年前(1918年)に人類が初めて「宇宙ジェット」を発見した記念すべき天体としても大変有名です。

しかしながら、ジェット根元の噴出速度については未だ正確に決定することができていませんでした。これまで主に米国のVLBI観測網を用いてM87ジェットのモニターが何度か行われており、先行研究ではジェット根元付近の運動は光速の10~30%程度以下と、極めて遅いということが示唆されていました。ところがこれらの観測はモニター頻度がせいぜい3ヶ月〜半年毎に一回という、非常に粗いものでした。そのため時期が大きく異なる画像の間でジェットの運動をきちんと追尾できていない、という可能性が指摘されていました。この問題を克服するためには、ジェット根元の運動をより頻繁に、かつ定常的にモニターできる観測が必要だったのです。

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