日韓合同電波望遠鏡群で探る巨大ブラックホールジェット 〜見えてきた「超光速噴出流」の現場〜

観測結果

図5:日韓合同VLBI観測網(22GHz帯/波長13ミリ)によって今回撮影されたM87ジェット根元の電波写真。ハッブル宇宙望遠鏡の100倍以上の解像度でブラックホールから噴出して間もないジェット(根元の10光年以内の領域)の様子を鮮明に捉えることができた。(クレジット:ハッブル宇宙望遠鏡画像: NASA and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA)、KaVA画像: 国立天文台)


研究チームは今回2013年12月から2014年6月にかけて、KaVAを用いてM87ジェットの根元を約2~3週間に一度というかつてない高い頻度で計13回のVLBIモニター観測を行いました(図5)。その結果、これまで知られていなかった、噴出口付近でのジェットの詳細な運動の様子が明らかになってきたのです。

今回の研究結果で、最も重要なことは、ジェットがブラックホールから噴出した直後といえる、わずか5光年に満たない地点において、「超光速運動」が起こっていることを発見したことです(図6)。超光速運動とはジェットが我々に向かって極めて速い速度(光速の約70%以上)で運動している場合に、観測者にとって見かけ上、光の速度を超えて測定される現象です。これまでも、ブラックホールから数10〜数100光年以上離れた噴出流の下流地点では幾つかの天体でしばしば報告されています。M87においても100光年を超える下流地点では超光速運動が過去の観測では確認されていましたが、ブラックホールにここまで肉薄した噴出口付近で、この現象を決定的に捉えたのは今回が初めてです。

図6. 日韓合同VLBI観測網によるM87ジェット根元のモニター観測の結果(運動の様子が見やすいように、ジェットの方向が水平になるように画像を回転させてある)。2013年12月から2014年6月の間に行われた観測のうち、5つの時期の観測データを示した。輝度が最も明るい場所に巨大ブラックホールが潜んでおり、ここがジェットの噴出元に対応している。そこから4光年程度下流で、ジェットが時間とともに外側(この図では右側)に運動していく様子が見て取れる。参考のため、光の速度で移動している場合に対応するラインを緑の直線v=cで示してある。M87のジェットは噴出して間もない地点において既に「見かけ上」光速よりも速い速度で運動していることが本観測により明らかになった。(クレジット:国立天文台)

今回の観測では光速の約1.1倍を超える超光速運動が明らかになりました。これはジェットが視線方向から20度の方向に傾いている場合なら、実際には光速の80%以上の速度でジェットが運動していることを意味しています。したがって、本結果は、これまで考えられていたよりも10倍以上もブラックホールに近い位置で、ジェット噴出流がすでに極めて速い速度にまで加速されていることを示唆しています。

次へ: 5. 本研究のインパクトと今後の展望

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