You are here2018年測地学サマースクール開催報告

2018年測地学サマースクール開催報告


去る今年の9月18~20日の3日間、日本測地学会が主催する測地学サマースクールが国立天文台の協力の下で水沢キャンパスにて催されました。内容は講義、実習、施設見学等で、この内の講義と実習は水沢キャンパス本館、更に施設見学は水沢キャンパス構内と江刺地球潮汐観測施設にて行なわれました。本記事は、その概略等の報告になります。

(この記事は、サマースクールの責任者である原田雄司氏にご寄稿いただきました。)

実は当該のサマースクール、以前にも水沢キャンパスで既に二回開催された実績があり、よって今年は三度目の水沢開催となります。私事ですが、この水沢キャンパスは筆者である私、原田雄司(澳門科技大学)が嘗て大学院生やポスドクとして長く受け入れて頂いた古巣であり、そして本件に限らず今も大変、お世話になっている場所です。又、二度目の開催の際には偶然ながら私自身も受講生の一人として参加させて頂いた経緯があり、とても懐かしい思い出です。ただ、その時には、まさか私自身がサマースクールの幹事を引き受ける機会を頂く事になるだろうとは全く想像も出来ませんでしたが。。。

1.主題

今回のメインテーマは「測〇学」でした。サマースクールのテーマは例年、各々の幹事の方々のアイデアに応じて色々と設定されます。今回は私が属する分野である惑星測地学を主題に据えました。タイトルを「測〇学」と称したのも惑星測地、即ち地球以外の研究対象も含む事を暗示する為でした。この分野は日本国内においてマイナーでありサマースクールのテーマとなる事は滅多にない為、偶には取り扱われるのも悪くないだろうと考えました。それから惑星測地の他、同じくマイナーながら一般に測地の分野において重要となる潮汐変形等、固体天体のグローバルな変形に関する理論も私の関心事の一つですので、その点も若干ですが今回の内容に含めました。それらの意味で会場として選ばれた水沢キャンパスは惑星測地と潮汐の双方の分野における拠点の一つですので恐らく内容に見合う会場だったと私は考えています。又、サマースクールの講師陣は何れも同学会の先生方が担当なさっていますが、その大半は水沢キャンパスの方々、或いは水沢キャンパスと関係の深い方々ですので、その点も今回の内容と調和的でした。

2.内容

前述した通り今回のキーワードは主に惑星測地と潮汐変形でした。ただ話題が偏ってしまって肝心の地球を研究対象としている人達が興味を失うのも良くないですので、そうならない様、講義と実習の何れに関しても地球と地球以外の双方の話に触れて欲しい旨、講師達に依頼しました。同じく講義のトピックに関しても潮汐に限らず測距、回転、重力、等々関連知識を多く盛り込む事でバランスが取れる様にアレンジを試みました。そして講義、実習、施設見学を担当なさった講師の方々全員が私の無茶な希望に応えて下さいました。お陰様でサマースクール全体を通じて各知識が相互に関連した内容となりました。例えば実習の時に講義で既に触れた話が度々言及されていたので理解を深める上で良かったと思います。その様な訳で講師の皆様の丁寧な配慮には世話人として頭の下がる思いでした。各日の内容は具体的に次の通りです。

2-1.一日目

先ず一日目には主に講義が実施されました。具体的には同学会の会長を務める日置幸介氏(北海道大学)から開会挨拶,水沢の所員の松本晃治氏(国立天文台)から事前連絡,そして両氏に加えて大坪俊通氏(一橋大学)と山本圭香氏(国立天文台)も含む四名の講師陣による特別講義が行なわれました。主な対象として地球と月を据えて大坪氏からはレーザ測距、日置氏からは回転、松本氏からは潮汐、山本氏からは重力場に関する話題が紹介されて活発な議論も交わされました。因みに日置氏と松本氏は冒頭で触れた昔の水沢開催の元幹事です。同じく大坪氏も以前の鹿島宇宙技術センター開催時の幹事を担当なさっており、その時にも私は受講生として、お世話になりました。又、お昼の集合の前後の時間帯には、この水沢キャンパスの前身である旧緯度観測所が誇る地球回転の成果を取り扱った「不思議の星地球」が上映されました。この映像は過去に作成された国立天文台を紹介するビデオの一つです。同日の晩には講師と受講生の双方の自己紹介も兼ねた懇親会が開かれました。自己紹介の際には一部の受講生や講師が場を盛り上げて下さったので各人が楽しい一時を過ごせたのではないかと思います。

2-2.二日目

次に二日目には主に実習が実施されました。その内の午前中は主に野田寛大氏(国立天文台)から、そして午後は主に松本氏から実習内容に関して詳細に説明して頂くと同時に、それらの解説を踏まえた上で実習自体もリードして頂きました。特に野田氏は天体の位置や姿勢を簡易に見積もる事が出来るツールの使い方の基礎を丁寧に解説して下さいました。そのツールの使用方法の応用例として松本氏は、それらの位置や姿勢の出力を用いた潮汐力や潮汐ポテンシャルの計算方法や、その前提となる潮汐の基礎知識を同じく丁寧に解説して下さいました。それから午後の後半には主に私の方から固体天体の粘弾性変形(特に潮汐変形)の応答係数を求めるソフトが紹介され、この前の松本氏の話も踏まえて潮汐変形による重力や重力ポテンシャルの擾乱を見積もる方法も紹介されました。同時に田村良明氏(国立天文台)の協力の下、上述の計算結果を超伝導重力計による実際の観測結果と照合、更には地球の場合で潮汐力による摂動を見積もる際に一般的に使用されている別のソフトの紹介も行ないました。このソフトは田村氏が自ら開発なさった物です。その一方、月の潮汐変形の場合には観測データと比較する代わりに潮汐応答の内部構造依存性、特に月表面の変位の核半径に対する依存性を数値的に調べました。実習の際には上記の講師達の他に山本氏と荒木博志氏(国立天文台)も加わって受講生達の作業をサポートしました。

2-3.三日目

最後の三日目には主に実習の続き、及び施設見学が実施されました。午前の最初に私の方から粘弾性変形(特に荷重変形)を求める為の他のソフトに関する簡単な紹介、及び前日の実習に関する補足説明の後、実習が継続されました。中には地球や月だけでなく水星の軌道や潮汐に着目した受講生も居た様です。終わり頃には松本氏からも更なる補足説明を頂きました。そして正午頃に日置氏より受講生への修了証の授与と今回のサマースクールの総括の後、閉会が宣言されました。閉会後、午後には受講生と講師の中で希望者のみ対象に施設見学が行なわれました。水沢キャンパスの見学は田村氏と寺家孝明氏(国立天文台)が、そして江刺の施設の見学は坪川恒也氏(真英計測)が案内して下さいました。最初に主に寺家氏と田村氏から水沢の測地関係の観測機器,特に重力計や電波望遠鏡を中心とする施設が紹介されました。更に電波望遠鏡と関連してアンテナツアーも実施されました。その後、車で江刺へ移動して主に坪川氏と田村氏から観測機器が紹介されました。ただ残念ながら私は別件の為に江刺の見学まで同行が出来ませんでした。

3.感想

今年の受講生の数は例年と比べて少なく、そんなにメジャーでない惑星測地という分野の裾野の拡大に余り貢献が出来なかったのは心残りです。一方で、その分だけ実習の際に受講生の一人一人に対して手厚いサポートが可能となり、人数が少なかった事によって比較的アットホームな雰囲気が作られた様にも思います。

4.謝辞

今回のサマースクールは主催団体である日本測地学会、及び協力団体である国立天文台の支援を受けて行われました。又、当該団体に属する多数の方から個別に多大な助力が得られました。お陰で、無事にサマースクールを完了させる事が出来ました。この場を借りまして改めて深く感謝を申し上げます。それから実習で紹介させて頂いたソフト等は何れも無償で公開されております。重ねて感謝を申し上げます。