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最新の測月データで探る月の内部構造


概要

 国立天文台、北海道大学、宇宙航空研究開発機構、大阪大学の研究者から成る研究チームは、アポロ月震データと最新の測月データとを組み合わせて月の内部構造を推定しました。その結果、これまでの研究と比較してマントル下部の軟らかい層がより厚く、その密度がより大きいモデルで観測値がうまく説明できることが分かりました。この研究結果は、月の歴史の初期にマントルの上部に形成されたチタンに富んだ重い層が、その後マントルの深部に沈んだとする「マントルオーバーターン仮説」を支持します。

 

研究の背景

 月の内部構造は、月がどのようにして生まれ、どのようにして今の姿になったかを理解する鍵の一つです。アポロ計画で実施された観測から月にも地震があることが分かり(注1)、これを利用して月の内部構造の研究が進みました。しかし、設置された月震計は月の表側に数点しかなく、また、これまでに観測されている月震の分布は表面から約1200 km(中心から約540 km)までの深さに限られています。表面から約1200 kmより深い部分の構造は研究によって結果が異なり、依然として不確かさが残っていました。一方、月の内部構造を知る手がかりは、月の回転や地球の引力による月の変形を詳しく調べること(測月観測と呼ばれます)からも得ることができます。月の回転はアポロ時代から月レーザ測距で観測され続けており、また、月の変形に伴うわずかな重力変化が、近年米国のグレイルという探査機によって高精度に観測されました。測月観測から、月の変形のしやすさ(軟らかさ)や内部の密度分布についての情報が得られます。しかし、最新の測月データと月震データを組み合わせた月内部構造研究はまだなされていませんでした。

 

研究成果

 月は表面から中心に向かって、岩石でできた地殻、マントル、金属でできた核という層構造を持つと考えられています。研究チームは、月震データと最新の測月データとの双方を説明できる新しい月の内部構造モデルを構築しました。表面から約1200 kmより深い構造は主に最新の測月データの寄与により推定されました。その結果、先行研究の結果と比べ、マントルの底にあると考えられる軟らかい層(注2)がより厚く、その密度がより大きいことが分かりました。先行研究では軟らかい層の厚さは150 km、密度は3400 kg/m3とされていましたが、本研究では厚さは少なくとも170 km、密度は3450~3650 kg/m3と推定されました。この密度は、高温高圧実験で測定されたチタンを多く含む玄武岩の密度と調和的です。これは何を示唆するのでしょうか?

 月ができたばかりの頃は大規模な融けたマグマの海があり、それが冷えるにしたがってマントルを作る岩石が沈んでいったと考えられています。チタンは融けた部分に残りやすいため、マグマの海が固化する最終段階ではチタンが多く含まれる層がマントルの上部に作られます。ところが、このチタンに富む層は下層に比べて重いため深部に沈みはじめ、最終的にはマントルの層構造が反転した可能性が指摘されています。これをマントルオーバーターン仮説といいます。本研究の結果はこのマントルオーバーターンが起きたと考えればうまく説明できます。

 

研究の意義と今後の展望

 研究チームを主導した国立天文台の松本晃治准教授は「最新のデータを用いることによって月の進化の議論につながる月内部構造モデルを導くことが出来ました」と研究の意義を述べ、また、「軟らかい層は少なくとも170 kmの厚さを持つという結果が出ましたが、まだデータが不足しており、実際の厚さはよく分かりません。これが分かれば中心付近にある核の大きさも分かり、月の起源・進化の議論を深めることができるでしょう」と語っています。国立天文台の山田竜平特任研究員は今後の展望について「月の内部構造をより良く理解するには、将来の月探査でより高性能な月震計をより多く設置することが重要です」と語っています。

 本研究成果は2015年10月発行の米国の専門誌『ジオフィジカル・リサーチ・レターズ』掲載されました(Matsumoto et al., 2015, Internal structure of the Moon inferred from Apollo seismic data and selenodetic data from GRAIL and LLR)。 

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金22540441および24244072のサポートを受けています。

 

研究チーム構成

松本晃治 国立天文台 RISE月惑星探査検討室

山田竜平 国立天文台 RISE月惑星探査検討室

菊池冬彦 国立天文台 RISE月惑星探査検討室

鎌田俊一 北海道大学 創成研究機構

石原吉明 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所

岩田隆浩 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所

花田英夫 国立天文台 RISE月惑星探査検討室

佐々木晶 大阪大学 大学院理学研究科

 

 

(注1)月震とよばれます。こちらの記事もご覧ください。 

(注2)柔らかさ・硬さの指標の一つである粘性率が低く、地震波の速度も遅い層。この層の粘性率が低いことについてはこちらの記事もご覧ください。なお、ここでは先行研究の結果としてWeber et al. (2011)の値を参照しています。