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潮の満ち引きを起こす力が月では深発地震を発生させている可能性、新たな研究が指摘


先日、米国地球物理学会(American Geophysical Union)が発行する雑誌、Journal of Geophysical Research: Planetに掲載された、RISEメンバーの川村らの論文が米国地球物理学会の公開しているブログで紹介されました。原文は英語なのですが許可をいただいて、翻訳版を紹介させていただきます。

原文は以下のリンクより

http://blogs.agu.org/geospace/2017/08/30/moons-tidal-stress-likely-responsible-causing-deep-moonquakes-new-study-confirms

 

潮の満ち引きを起こす力が月の深発地震を発生させている可能性、新たな研究が指摘

 

地球で潮の満ち引きを起こしている力と同様の力が月では地震を引き起こしていることが新たな研究により明らかになりました。

アポロが取得したデータの再解析によると潮汐力(地球と月の間に働く引力)が月では月震(月で起こる地震)を引き起こしているそうです。

アポロ12、14、15、16号が月面に設置した地震計により、深さ800-1200kmの所で深発月震と呼ばれる地震が約27日周期で発生していることが発見されました。当時の研究者は、この周期がちょうど月が地球の周りを公転する周期と近いことから、深発月震が潮汐によって引き起こされていると考えていましたが、実際にどのようなメカニズムで地震が発生しているかは今日でも議論が続いています。

米国地球物理学会(American Geophysical Union)が発行する雑誌、Journal of Geophysical Research: Planet で発表された新たな研究では、アポロが設置した2種類の異なる種類の地震計(*1)のデータを組み合わせて使っています。こうすることで、著者たちは1969年から1977年にかけて活発だった3か所の震源(*2)で発生した131の月震を解析し、これらが地球との間の潮汐によって引き起こされている可能性が高いことを示しました。

潮汐力は、地球では潮の満ち引きを引き起こすことでよく知られています。月に近い面とその反対側では、海面が高くなり、満ち潮となります(*3)。この力は海面のような液体のみでなく、固体にも影響し、天体全体を歪ませます。月ではこのような固体潮汐の歪みが蓄積し、断層や亀裂を発生させ、潮汐の力のかかり方に応じて地震を発生させていると考えられています。

 

過去のデータの再解析

地球と同様に月には地殻、マントル、核があると考えられていますが、地球のようなプレートテクトニクスは存在しません。つまり地球のようにプレートがぶつかったり、すれ違ったりして地震が発生することはありません。

深発月震は一般的にマグニチュード2以下と非常に小さいですが、地球のように同じ断層が数十年、数百年に一度活動するのではなく、同じ震源で毎月発生しています。また地球の地震が長くても数分で揺れが収まるのに対し、月震は長い時で数時間揺れ続けます。これは月が地球よりも冷たく、乾いているためです。地球の岩石は水を含むためスポンジのように地震の衝撃を吸収しますが、月では岩石が乾いているため地震のエネルギーは吸収されにくく、揺れが長く続きます。

これまでのアポロデータを用いた深発月震に関する研究には、大きな制限がありました。アポロの二つの地震計はそれぞれ深発月震の地震波の一部分しか観測しておらず、一方の地震計のみの解析ではその全容を理解することが難しかったのです(短周期計は高周波の揺れのみ、長周期計は低周波の揺れのみを観測していました)。

過去の研究では長周期計のデータのみを使っていたため実際に深発月震によって解放された力を過小評価していました。そのため解放された力と潮汐力の関係を明らかにすることはできませんでした、と本研究の共著者ではありませんが月震の専門家であるNASAマーシャル宇宙飛行センターの惑星科学者Renee Weber博士は言います。

著者たちの研究では短周期計と長周期計、二つの異なる地震計のデータを合成する手法を提案しています。このように二つのデータを合成することで調査する地震波の周波数を広げ、震源の理解を深めることに成功しました。その結果、地震によって解放されている力と潮汐の力が一致することを明らかにすることができました。パリ地球物理研究所でこの研究を主導し、現在は国立天文台に所属する川村太一博士によると、この結果は深発月震が実際に潮汐によって引き起こされているということを強く支持する結果だということです。

 

月の内部構造に対する示唆

先述のWeber博士は、この研究結果は月の内部が以前考えられていたよりも冷たい可能性を示唆するものだと指摘します。

これまで、月科学者は深発月震が起こる月の深部は熱くなっており、そのため地震が起こっている断層面もしなやかで柔らかいと考えていました。しかし新たな研究成果は深発月震が潮汐による岩石の破壊で発生している可能性を示しているため、月の内部が以前考えられていたよりも冷たい可能性があることを意味します。著者によると、月の深部の温度と組成を知るためにはさらに研究を進める必要があるとのことです。

この研究は将来の宇宙地震探査計画、例えば2018年5月に火星にむけて打ち上げる予定のInSightなどに、どのような観測機器を搭載すべきかについても、一石を投じるものだとWeber博士は言います。

「InSightでもアポロと同様に広帯域地震計と短周期地震計を搭載する予定ですので、この研究のように二つのデータを合成する手法は可能であると考えられます。」(Weber博士)

(原文 Madeleine Jepsen, 米国地球物理学会サイエンスライター)

(訳 川村太一)

 

*1 アポロでは各観測点に3方向の揺れを感知する長周期地震計と鉛直方向の揺れを感知する短周期地震計の2種類が設置されていました。

*2 深発月震は同じ震源で何度も発生することが知られており、それぞれの震源ごとに発生した地震の数や地震のマグニチュードが異なります。この研究ではそのような震源の中でもマグニチュードの大きな地震を多く発生させている3つの震源で発生する地震を使っています。

*3 このように、地球では半日~1日の変化が卓越しますが、月では一ヶ月の変化が卓越します。これは月が地球の周りを楕円軌道で公転しており、公転中に地球との距離が変化するためです。重力、潮汐力の強さは距離によって変化するため、公転中に力のかかり方が変化し、その変化に応じて亀裂が生じたり、断層がずれたりして深発月震が発生していると考えられています。

 

 図1 :NASAのガリレオ探査機による1992/12/7,8の月ー地球スイングバイ中に撮影された月の北極域の様子。 提供: NASA/JPL

 

 図2 :本研究で用いられた深発月震の震源位置とアポロの観測点の位置。月面の画像はNASAのLunar Reconnaissance Orbiter Camera(LROC)によって撮影されたもので震源位置、観測点の位置は著者らによる。 提供: NASA and Kawamura et al/Journal of Geophysical Research/AGU

 

論文情報

Evaluation of deep moonquake source parameters: Implication for fault characteristics and thermal state

Taichi Kawamura, Philippe Lognonné, Yasuhiro Nishikawa, Satoshi Tanaka J. Geophy. Res. Planet., Volume 122, Issue 7, July 2017, Pages 1487–1504

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2016JE005147/full