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天体の軌道から太陽系の歴史を探る


 こんにちは。樋口有理可と申します。2017年8月1日よりRISE月惑星探査検討室の特任研究員となりました。この機会を頂いて、これまでの私の経歴や研究内容についてご紹介したいと思います。

 

 写真1:2013年に台湾で行った天体力学N体研究会で古在先生(右)とご一緒した時の写真。

 

 私は神戸大学理学部地球惑星科学科の太陽系物理学研究室にいた頃から、天体の軌道の研究をしてきました。もう少し詳しく述べますと、大きな天体の周りを回る小さな天体、すなわち、太陽の周りを回る彗星や小惑星、惑星の周りを回る衛星などの研究です。これらの天体は、ほぼ「ケプラー運動」と呼ばれる運動をしています。ケプラー運動とは、ひとつの楕円の上をぐるぐる回る運動で、この楕円は勝手に形や向きを変えることはありません。楕円を1周するのにかかる時間(周期)も変わりません。すなわち、過去と未来の区別がなく、また一定時間後(前)の位置を計算で完全に知ることができるのです。ハレー彗星の周期が約76年であることはよく知られています。私は7歳の時に父に連れられて山に行き、父の友人の望遠鏡で見せてもらったことを覚えています(もう一度見られたら嬉しいです)。このように、次の回帰が予測できるのもハレー彗星がほぼケプラー運動をしているからです。

 ここで、「ほぼ」というのが重要です。つまり、完全なケプラー運動ではありません。ハレー彗星は木星などの惑星からの重力を受けて楕円軌道が歪んだり、太陽に熱せられ表面の氷が蒸発することで加速したり減速したりします。このような、大きな天体以外(ハレー彗星の場合は太陽重力以外)による力を摂動と呼びます。現在観測される彗星や小惑星、衛星がいろんなものから受ける摂動はあまり強くありませんが、それらが誕生してから数十億年分の摂動を積分した量は非常に大きくなります。私のこれまでの研究内容は、太陽系の惑星が誕生する傍らで、小さな天体が摂動を受けてどのように進化したのかを数式や計算機を使って調べることでした。主な対象はオールトの雲です。オールトの雲とは太陽系を遠方から取り囲む彗星の巣です。

 神戸大学で行った修士論文では、惑星からの強い摂動を受けた彗星がどのようにしてオールトの雲に運ばれるのかなどを調べました。博士課程では国立天文台の理論研究部に学振研究員の受託学生として在籍し、オールトの雲にある彗星が銀河系からの摂動でどのように軌道が変化するのかを古在機構の式を使って調べました。古在機構とは惑星の摂動を受ける小惑星の軌道傾斜角(軌道の傾き)と離心率(軌道形の円からの歪み具合)が大きく振動するメカニズムで、初代国立天文台長でもある古在由秀名誉教授(写真1)により発見されました(脚注参照)。これを銀河系からの摂動に応用し、彗星の楕円軌道の形がその摂動により数十億年のタイムスケールで変化していることを示しました。

 

写真2:2017年にウルグアイのモンテビデオで開催されたAsteroids, Comets, Meteors(小惑星・彗星・流星会議、通称ACM)での写真。"Montevideo"の2個目の"e"にいるのが私。ACMは太陽系小天体に関する国際会議としては最大のもので、3年に一度開催される。2011年は日本開催の予定であったが東日本大震災の影響で翌年に延期された。

 

 学位取得後もさらに学振研究員として3年理論研究部に在籍したのち、東京工業大学に異動しました。そこでは大学院生を含む新しい共同研究者と共に様々な天体の軌道の研究を始めました。主な研究は、太陽の周りを回っていた小惑星が惑星の周りを回るようになる過程についてのものです。木星などの大きな惑星の周りにはそうして衛星になってしまったと思われる小惑星がたくさん観測されています。火星の衛星も、もしかすると、もとは太陽の周りを回る小惑星だったのかもしれません。火星衛星の起源は、JAXAが火星衛星からのサンプルリターン計画(MMX計画)を推進する今、特に関心が高まったテーマではないでしょうか。このMMX計画にはRISEの人たちも関わっています。私はこれまでは軌道のことばかり考えてきましたが、RISEの一員となった今、天体そのものが何でできているのか、どんな形をしているのかを勉強していきたいと思います。

 世界には太陽系小天体の研究者がたくさんいます(写真2)。私も理論研究に加え観測や探査といった複数のアプローチをとれる研究者になりたいです。これからRISEで研究を行うことが楽しみです。

 

 脚注: 古在先生が古在機構についての論文を発表された1962年の前年に、Lidovが人工衛星の軌道の研究において同様のメカニズムを発表していた(ただしロシア語で)ことが2005年頃より指摘され始め、現在はリドフ−古在機構と呼ぶことも多い。

(文責 樋口)