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LALT ~月の地形を測る~


月の地形学

1. 月面地形の特徴

月の地形と言えば、まず小惑星、彗星、隕石といった比較的小さな天体の衝突でできた夥しい数のクレーターが思い浮かびます。大きなクレーターの周囲には破片が作った2次クレーター、クレーターチェーン、放射状の溝なども見られます。しかし月にはドーム、谷、噴火堆積物など独自の火成活動を示す地形や地質、月全体の形成や進化の痕跡を残す大規模地形や形状の特性も残っています。ここでは月全体に渡る大規模地形について簡単に説明します。

月面は表裏を合わせて、「海」、「高地」、「南極エイトケン盆地」の3地域に大きく分けられます。まず地球から見える表側で目を引くのは、ウサギやカニなどの形で肉眼でも良くわかる「海」で、地形としては周囲よりも低いところです。丸い海の元の地形は直径数百キロ以上の超巨大クレータ(衝突盆地)であり、後の時代に色の黒い玄武岩で覆われたため良く目立ちます。

「海」は色調で目立ちますが月全表面のわずか17%に過ぎません。そして裏側では「海」はほとんどありません。月面の大半を占めるのが「高地」といわれる地域で、比較的明るく、高度は高く(月面最高点は月裏側の高地にあります)、「海」よりも古い(クレーターの多い)ところです。

第3は「南極エイトケン盆地」です。これは裏側の南半球から南極に広がる月面最大の衝突盆地で直径2500kmもあります。実際月面で一番低い場所はこの中にあります。先ほど「海」の元地形は衝突盆地だと述べましたが、「南極エイトケン盆地」は、盆地全体を覆うような玄武岩がなく、「海になりそこなった衝突盆地」といえます。裏側では地殻が表側よりも厚く放射性元素の濃縮が無いためだろうと考えられていますが、なぜ表と裏で地殻の構造が異なるのか(2分性の問題)は残念ながら未解明です。この問題は月だけでなく火星においても重要な研究課題になっています。

2. 月のかたち

「かぐや」LALTの観測により月の平均半径は1737.1537kmと求められ、月半径として慣習的に用いられてきた1737.4kmよりも小さいことがわかりました。また、月の極半径(1735.6604km)は赤道半径(1737.9004km)よりも2.2kmほど小さく、極方向に若干押しつぶした形で偏平率は1/775.845になります。地球は1/298.25722なので月は地球よりも球に近い形であると言えます。月の重心と形の中心が約2kmずれていることは(COM-COFオフセット)、月探査機が飛ぶようになって以来知られています。「かぐや」LALTの解析結果によると、形の中心が重心に比べて1.93461(km)、経度方向に+202.40°、緯度方向に+7.09°ずれています。これは月裏側高地の最高点方向に近く月地殻厚さの表と裏の違い(2分性、【月面地形の特徴】を参照)の反映と思われます。月の偏平率やCOM-COFオフセットは、「1.月面地形の特徴」で説明した月の2分性がいつ、どのようなメカニズムで作られたのかを考えるとき重要な手掛かりになるものです。

レーザ高度計(LALT)開発及び運用

2006年4月、国立天文台RISE月探査プロジェクト(現、RISE月惑星探査検討室)では月の精密な地形図作成を目的として「かぐや」(SELENE)に搭載するレーザ高度計(LALT: Laser ALTimeter)の開発に成功しました。

LALTはCrドープNd:YAGレーザパルスを1秒間隔で月面に向けて打ち「かぐや」主衛星の軌道沿いに約1.54km 間隔で測距データを取得します。パルスビームの広がり角は0.4ミリラジアンで,高度100kmからの観測で月面上のビーム径(フットプリント)は40mになります。衛星自身の位置、レーザ測距方向、LALTの主衛星内の位置情報は、2-wayドップラートラッキング、主衛星搭載スターセンサー、地上計測のデータをそれぞれ用い、LALT測距データをもとに月全面の地形データを作製しました。

開発 は平成11年(1999年)から始まり、平成13年度(2001年度)に フライトモデル(FM)の製作が開始され、単体での試験と衛星とのインタフェース試験を経た後、平成18年(2006年)4月に完成しました。平成19年(2007年)に衛星に取り付けた状態での最終試験をクリアした後、同年9月14日JAXA種子島宇宙センターから打上げられました。そして2007年12月30日から2009年6月11日、18:25(JST)に月面に制御落下するまで観測を行い、月形状、地形、極域日照条件、内部構造、星食解析にいたるまで、数多くの成果が発表されました (Araki et al., 2013; Araki et al., 2009; Noda et al., 2008; Ishihara et al., 2009; Ishihara et al., 2011; Fok et al., 2011; Bussey et al., 2011)。

LALT運用についても簡単に記しておきます。2007年12月30日の本運用開始から2008年4月9日まで、3ヶ月半は正常に運用されていたのですが、2008年4月9日から14日にかけてレーザ出力が約5mJ(約7%)低下する現象が起きました。そのため4月14日からレーザの急激な劣化を避け、かつ出力現象の原因を探る事を目的に連続運用を止めて間欠運用モードに入りました。7月末に4つある主衛星のリアクションホイール(姿勢安定装置;RW)の1つが不具合を起こし、LALTの観測不能時間帯がそれまでの12時間に1回から6時間に1回に増え、観測時間の減少だけでなく主衛星の軌道決定精度悪化の要因の一つになりました。ノミナルミッションの終わる2008年10月31日を機に主衛星のドップラー観測局が減ったため、軌道決定精度がさらに悪くなり、以後の延長ミッションではLALTで測距はできても月地形再現が難しくなりました。12月26日に2つ目のRWが故障し、主衛星の姿勢を月面指向に保つためスラスターを常時運用することになり、LALTはスラスターからのコンタミネーションを避けるため1ヶ月半観測を完全に停止しました。その間主衛星は磁力計(LMAG)などの近距離観測の要求を満たすため平均高度を50kmにまで順次下げ最終的に平均高度は50kmとなります。LALTは2009年2月11日に連続観測を再開し、ミッションの終了(2009年6月10日)まで運用を続けることができました。

以上のような観測運用の結果、測距データ総数は22,061,496(成功率96.91%)、月地形データ総数は10,340,710に達しました。測距データ数に比べて地形データ数が半分以下なのは上記の通りで、延長ミッションでは軌道精度が悪く、ノミナルミッションの地形データと統合するのが難しいためです。

LALTの観測により時系列地形データだけでなく、全球及び極域のグリッドデータや地形の球面調和関数展開係数データが作製され、月の形状や地下構造の解析に貢献しました。最近では月の地形データは日本のKAGUYA-LALT、LISM-TC、米国のLRO-LOLA、中国のChang’E-LAM、などによる全球データが得られるようになっていますが、その中でもLALTはいち早く全球地形データを取得し結果を発表してきました。LALTの月地形データは2009年11月に宇宙航空研究開発機構から一般公開され、2011年11月からは国立天文台からも一般公開されています。