じつはいまVERAに来てからは、野辺山にいたころにやっていた「元の専門」とちがうことをやっているんです。
研究ジャンルを変えたんですか?!ある意味畑違いの事をやってらっしゃると。
はい。(大きくうなずく)もともと私は、よその銀河の中心の周りを回転している円盤から出てきている水メーザー電波を観測していたんです。
その観測だと何がわかるんですか?
そこにブラックホールがあるかどうかがわかります。まず中心のまわりをどれくらいの速度で円盤が回転しているかを調べます。これは速度が分かればいいので、単一鏡の観測でもわかります。そして、もっと分解能が高いVLBIで観測すると、その速度でまわっている水メーザーが中心からどれくらい離れたところにあるかがわかります。
うんうん。
どれくらい離れたところをどれくらいの速度でまわっているかがわかれば、万有引力の法則で、中心部の重さがわかります。重さが分かると、この広さの中に入れ込めるのは星じゃ無理だよね、ブラックホールしかあり得ないよね、ということがわかるんです。それがNGC4258の有名な成果です。
あっ、中井先生の成果ですね。
私は基本的に同じ事を、ほかの天体でやっていました。それとは別に、45m電波望遠鏡で長年ずーっと追いかけている速度モニター観測のデータから、どれくらいの変化率で速度が変化するためには、この円の半径がどれぐらいじゃなきゃいけない、というのが計算で出るんです。つまり実際の円盤の半径がわかる。それが見かけ何秒に見えるってことは、この銀河までの距離が何光年だよね、っていう距離が出せるんです。
なるほど!
距離をはかるにしても、ほかの銀河の距離を測っていました。
そうか!いまVERAにいらっしゃるということは。
はい。自分たちの銀河のなかにある星の距離をはかっています。
大学院生のころは国立天文台野辺山宇宙電波観測所で、他の銀河の中心にあるブラックホールの周囲の分子ガス円盤を研究していました。水沢VLBI観測所に来てからは、我々の銀河系の中の、銀河系中心を挟んで反対側にある遠い星までの距離測定を中心に研究しています。一児の母で産休・育休を経て研究に復帰しました。趣味は読書(特にSF)
メーザーはレーザーの電波版。非常に指向性・単波長性が高い。水メーザーは水蒸気ガスが出すメーザー。
りょうけん座にある棒渦巻銀河。地球からの距離は2300万光年。
国立天文台グループによる世界初の銀河中心巨大ブラックホール発見。1993年に野辺山45m電波望遠鏡により秒速1000kmで運動するガスを発見し、さらにVLBI観測を行ってNGC4258の中心に太陽の3900万倍の質量の巨大ブラックホールを発見した。
筑波大学の中井直正教授。山内さんの野辺山での指導教官。