はじめに坂井さんの仕事と研究内容について教えてください。
はい、僕は国立天文台のプロジェクト研究員として、VERAプロジェクトのメインの科学目標である天の川銀河の3次元の地図づくりを進めています。VERAを使って天の川銀河の構造を調べたり、個々の恒星や天体の運動情報を使って、銀河の力学なども研究しています。
プロジェクトの進捗状況はいかがですか?
VERAの科学目標は、2022年までに約300天体の星形成領域の年周視差計測を行うことです。逆算して、目標数が達成できるように順調に観測が進んでいます。すでにVERA単独で100天体くらいの観測を済ませていますが、まだデータ解析中なので、論文の形で世に出ているのは50天体くらい、という感じです。
計画通りに着々と進んで、まさに安定運用ですね。ちなみに坂井さんが担当する領域などは、決まっているのでしょうか?
そうですね、天の川銀河の研究者は、天体数が多い中心方向を研究する人が多いんですけど、僕は逆に銀河の外側に注目していまして、そちらの領域を主に担当しています。天体の数も少ないですし、その天体を観測する人たちもあまりいないんですけれど、そこを僕は、すきま産業のように、あまりやる人がいない領域を埋める感じでやっています。
以前お話をうかがった松本尚子さんは、銀河の中心方向におけるニッチな場所として「腕とバルジの付け根」を狙っていましたが、坂井さんはその逆方向を狙っているんですね。
そうですね。バルジは中心方向ですが、僕は本当に外側の、こういうところを研究しています。ニッチという点は一緒ですけど(笑)。
薄っ!?天体が見えないんですけど?
そうなんです(笑)。天体が少ないので、観測する天体を探すのも大変なんですよ。VERAプロジェクトも、条件が良く観測しやすい天体からどんどん観測を進めてきたんですが、300という目標に到達するためには、条件の悪い天体も観測しないと到達できないので、最近の悩みとしては、いかに新しい観測天体を探すかで苦労しています。
なるほど、そういう苦労があるんですね。
はい、やはり全体像を知りたいので、くまなく観測しないといけない。そこで遠くの天体を選択的に選んだり、今まで観測できなかったものを観測できるようにVERAをアップグレードする努力をしたりしています。ある意味、いまがプロジェクトの転換点ですね。大変だけれど、おもしろみが出てきたところです。
記事公開日:2017年3月24日
VERAや米国のVLBAを用いて、天の川銀河の3次元地図作りを行っています。銀河の中の渦巻き腕がお気に入りの構造で、腕の起源や進化の謎を解明することが研究テーマです。
趣味は旅先で現地の地図を集めたり、土地ごとの景色・人・言葉・食事・空気に触れることです。
宇宙空間の中で星が生まれている領域を星形成領域という。冷たくて密度の濃いガスが集まっており、特に密度の濃い部分のガスが収縮して星になると考えられている。
星が1千億個ほど集まった集合体を銀河と呼ぶ。
宇宙に数ある銀河の中でも、わたしたちの住む地球・太陽系を含む銀河のことを、天の川銀河(=銀河系)と呼ぶ。最近、天文学者のあいだでは「天の川銀河」の名称を使う人が多くなってきた。