第15回目の意中の人は
小林秀行さん

国際協力におけるマネージメント

マダム

国際協力におけるマネージメントについても教えてください。

小林

国際協力プロジェクトの代表はアルマとTMTですが、VLBIにも私が仕掛けていった国際協力プロジェクトがあります。韓国と中国、最近はタイも加えて、東アジアにおけるVLBI観測網の組織化を推進しています。

小林

組織化といってもね、最初は何にもないわけ。そもそも韓国だって最初は14mの電波望遠鏡1台しかなかった。そこに行って「VLBIをやりましょう、新しく望遠鏡を作って日本の望遠鏡と結合すると、こんな新しい研究ができますよ」と言って口説くんです。それで韓国は3台の電波望遠鏡を作りました。

マダム

すごい。

小林

そちらを進めながら中国にも声をかけたんです。中国はすでにヨーロッパと組んでVLBIをやっていたけれど、そこへ「日本とも一緒にやりましょうよ」という話を持っていったんですね。

VERAと東アジアの連携はなぜ重要か

マダム

中国にとって東アジアとの連携はどんなメリットがあるんですか?

小林

VLBIでは、望遠鏡どうしを遠く離すほど倍率が上がりますが、観測画像の品質は悪くなります。画像の品質を決めるのは、望遠鏡の数の多さ=密度なんです。日本にはVLBIに使える電波望遠鏡が13台ある。そこへ韓国の4台が加わり、さらに中国が入るとより密度が高くなって非常にクオリティの高い観測ができる。そこがメリットです。

マダム

なるほど。

小林

中国とヨーロッパと組んでいる観測は、距離が離れているから倍率は上がるけれども、中国とヨーロッパの間がスカスカなので、クオリティの高い観測にならない。そこで「私たちと組めばいい観測ができるよ」と言って、こっちを向かせたわけです。

マダム

そこへ、さらにタイが加わるのですね。

小林

そう。タイもいま天文学を一生懸命やろうとしています。でも、小さな電波望遠鏡を1台作っただけでは研究の競争力がない。だから、地の利を生かして周りの国と一緒にやれば、世界的な研究性能を出せる望遠鏡のひとつになれますよ、と現地へ3~4回行って口説き落として、予算を獲得してもらったところです。

マダム

タイの予算でタイに望遠鏡ができることは、日本にとってもメリットがありますよね。

小林

観測ネットワークがさらに南に広がることで、大きなメリットがあります。私がやっているのは、まあ要するに「営業」だね(笑)。

マダム

営業して繋がっていくのはVLBIの素敵なところですよね。

小林

そうだね。 本当に、ものすごく仲間になれるんですよ。もちろん研究だから競争しなきゃいけないけれど、望遠鏡をつくったりネットワークを組んでいく時は、同じ研究目的を持って一緒に夢を見ていくわけだから、そこが楽しいところだよね。

小林 秀行
氏名
小林 秀行 こばやし ひでゆき
出身地
東京都生まれ
紹介

千葉県育ち。野辺山ミリ波電波干渉計で学位を取得後、スペースVLBI計画のVSOPでは、衛星のシステム、観測システム、地上相関器システムの開発を進めた。VERAでは、プロジェクトマネージャとして、建設・性能出し・運用システム構築を進めた。またVERA、日本国内VLBI網の発展として東アジアVLBI網の構築を進めている。2010年から国立天文台財務担当副台長。

東アジアVLBI観測網

図はクリックで拡大表示されます。

日韓合同VLBI観測網(KVN and VERA Array KaVA)および東アジアVLBI観測網の研究成果

KaVAで活動銀河核ジェットの運動を捉えることに成功
東アジアVLBI、最初の成果!