第16回目の意中の人は
酒井大裕さん

難しいからこそ攻めたい!

酒井

このプロットが、実際に距離を測る時の指標になるものです(図2を参照)。年周視差を使った三角測量の方法で、Sgr Dの水メーザーの動きを約1年かけて追っていったんです。1年間見ているとSgr Dの位置がわずかにふらつくので、そのふらつきの大きさから実際の距離を測定できます。5つの点は観測をした点です。

マダム

1年ってすごいですよね。いままでそれをやった人はいなかったんですか?

酒井

はい。世界を見ても、ここの領域で実際にこういう年周視差の測定を使って観測してる人って、ほかにいないんですよね。

マダム

それはなぜ?

酒井

観測自体が難しいんです。まず観測する天体の距離がすごく遠いので、そもそもVERAの精度がないとできないというのが理由のひとつです。別の難しさとして、銀河系中心は南半球からはよく見えるんですが、距離を測る望遠鏡のほとんどは北半球にあるんです。北半球からだと地平面に近いところでしか見えないんですよね。

マダム

そうですね。

酒井

天体の信号が地球の大気を通るときは地平面に近いところほど誤差が大きくなってしまうのでしっかり補正をしないといけない。天気にも左右されます。水蒸気が多いと観測の精度が悪くなってしまう。1年観測しても、この3番目の点が1個抜けちゃうとデータの質が変わってしまいます。このシーズンに集中して雨が続いたりするとつらいですね。

マダム

もし、この3番目の点がなかったら?

酒井

誤差の値が大きくなるので実際の距離を出せなくなってしまいます。そうなると1年待ちになってしまう。もう1度地球が1周回るのを待たなきゃいけない。

マダム

うわー。VERAの強みや特徴を生かしきった達人技の観測なんですね。

酒井

最初に手をつけるにしては難易度が高いと言われました。でも、やりたかったんですよ。僕はVERAの最大限の能力を生かし切って、一番ギリギリできるところまで観測するぞ!と思っているので、試行錯誤しながらですが普通の観測ではやらないようなところを攻めたいです。

酒井 大裕
氏名
酒井 大裕 さかい だいすけ
出身地
愛知県生まれ
紹介

VERAの科学目標である天の川銀河の三次元地図づくりにおいて、天の川銀河の中心領域を主に担当しています。銀河系中心の魅力にとりつかれて早や6年、これからも銀河系中心のアストロメトリーを極めていきます。
学生時代は空手。最近の趣味は自宅で凝ったカレーを作ることです。

図2

東西方向(ミリ秒角)