2011年の東日本大震災では奥州市も震度6弱の揺れに見舞われましたね。VERAのアンテナも被災して大変でしたね。
パラボラアンテナを上下に振るギアが破損したり、停電もあって復旧するまで約5カ月かかりました。地面もものすごく動いてアンテナが元の位置から3メートルも動いていたんです。観測所全体が東南東に約3メートル移動していました。
今もその影響は続いているんですか?
はい。今でも続いていて他局とくらべると変動が大きいんです。上下の動きもあって10センチほど沈下して、じわじわ戻ってきています。
ちなみに震災の前からプレート運動で地面は動いていましたよ。2004年12月に初めて4局そろって観測した距離はこれですけど、2013年に観測した距離はこれ。石垣島だとプレート運動で年間6センチ前後動くわけだから、10年たてば60センチは動いてる。
60センチ!けっこう動くものなんですね。それこそ川口先生がおっしゃっていた「ハワイが日本に近づいてくる」っていう話になっちゃう。
そう。積み重なるとけっこう大きいですよ。最近はまた直線運動になってきましたけれども、震災のあと1~2年は、とにかく観測してアンテナの位置を決めてやらないことにはどうも位置がよくわからない。地震の前から比べると、動き方がまったくちがっているんです。
測地が大変になってしまったのですね。
こんなにアンテナの位置が動くところで観測をやって、非常に大変なときにVERAをやっている。これはたぶんVERAのプロジェクトが終わる頃になっても、もとには戻らないでしょうね。
でも測地観測データというのは自分が使うだけでなく、将来にそのデータを残すというのも仕事だと思っているんです。
はい。
たとえば、明治時代の人が三角測量をして地図を作っていますが、当時の人は自分たちが思っている最高の精度で観測しようと思って観測データを残していきました。そのとき設置した三角点がどう動いたかで地殻変動を調べていますから、昔の人が苦労して残したデータを今われわれが使っているんですよね。
いま記録している水沢局のデータも同じなんですね。
それに倣えばいいっていうわけではないけれど、いま1000年に1度しか起こらないと言われている地震がとにかく起こっちゃったから、それを観測データとして将来に残さなきゃいけない、という思いがありますよ。
国立天文台水沢VLBI観測所でVERAの測地を担当しています。
江刺地球潮汐観測施設やGPS、重力計などの観測装置を用いた地殻変動を研究しているほか、世界の座標系の中でアンテナの位置を決めるVLBI観測の国際プロジェクトにも協力しています。
古地図の魅力にはまっていて、古い地図を集めるのが趣味です。
水沢VLBI観測所前所長 川口則幸。VERAに夢中!第2回に登場