第9回目の意中の人は
寺家孝明さん

第39次南極越冬隊員として南極へ

マダム

天文学者が南極へ、何をしに行かれたんでしょうか?

寺家

昭和基地のVLBIの立ち上げと観測です。「(初代)しらせ」に乗って1997年の11月から1999年の3月まで、第39次の南極越冬隊員として行きました。

マダム

ご自身で志願して行かれたんですか?

寺家

はい、志願制です。向こうに行ったらVLBIは1から10まで全部を自分達観測隊員でやらないといけないですから、かなり忙しくて、あっという間でした。

マダム

1から10まで全部というと?

寺家

VLBIをやろうと思ったら、研究だけでなく、それに関わるロジスティックスが必要になります。VLBI観測をするための機材を日本から昭和基地まで運んで設置して起動させなければいけないし、輸送方法の検討、観測機器の設置と起動を夏期間に行うための段取りがあります。観測機器を動かすためには電気が必要ですよね。そうすると電力の確保と電気を供給するために燃料がどれだけ必要になるか、人の手配等必要なことがたくさん出てくるのです。例えばVLBI観測機器をドーム富士基地まで持って行くとしたら、どうするか。

マダム

どうするんだろう。雪上車で持って行くのは大変そうだから、飛行機かな?

寺家

うん。それで飛行機を使うなら、そのための飛行機燃料、機材、パイロットや整備をする人の手配、ドーム富士側と昭和基地側にどう整備基地を置いて飛行場をどういうふうに作るか、そういうことを全部考えてようやくできるんですよ。

マダム

うわあ、私そういう感覚がすっかり鈍ってます。

寺家

VLBI観測にしても機材とかテープを持って行かなきゃいけない。でも「しらせ」は1年に1回しか来ないですから、忘れ物は厳禁です。それでどうやって持って行って、保管して、持って帰るとか、相手局側との連絡手段をどうするかとか、もう何から何まで全部最初に考えて準備してなきゃいけない。自分がやりたいことをやるために、どれだけのことをやらなきゃいけないか、全体を大きく見ることができて非常に鍛えられました。

南極の職場

マダム

ここが昭和基地での仕事場ですか。

寺家さんの南極アルバムを見ながら
寺家さんの南極アルバムを見ながら
寺家

そうです。衛星受信棟の中ですね。

寺家

これはK4というビデオコンバーターです。ここにサンプラーと計算機があって、ここにVLBIのレコーダー、DIR1000があります。

マダム

日本で使っているのと同じ機材なんですね。

寺家 孝明
氏名
寺家 孝明 じけ たかあき
出身地
愛媛県生まれ
紹介

地学・地球物理学を専門として研究を行っており、国立天文台のVERAプロジェクトに係ってからは、VLBIを用いた時空計測に関する研究と幾何測地学を専門として研究を続けています。大学生の頃からフィールドワーカーなので、観測の現場にいる事をモットーにしております。

第39次南極観測隊

1997年11月~1999年3月。国立極地研究所の渋谷和雄隊長以下64名で構成され、内39名が越冬した。天文学者は寺家さん1名のみ。日本初の女性越冬隊員が2名参加した。

しらせ(砕氷艦)

「宗谷」「ふじ」に次ぐ3艦目の南極観測船。艦の運用は海上自衛隊により行われている。横須賀地方隊に所属。氷厚約1.5メートルの平坦氷海域を3ノット(時速約5キロメートル)で連続砕氷可能。(39次隊の時は初代しらせ。)

K4、DIR1000

VLBIの記録用機材。VERAに夢中!第4回を参照。現在、昭和基地ではHDD記録装置であるK5記録装置に変更されている。