結果

観測の結果、電波源Iの近くでこれらの水分子からの電波放射を初めて検出し、高解像度でその姿を捕えることに成功しました。2つの電波のうち、温度1700度に対応する水分子からの電波放射は、一酸化ケイ素で観測されたジェットと似たような形状をしていることから、電波源Iからのジェットにある水分子が電波を放射していることが分かりました。

一方、温度2700度に対応する水分子の電波放射は、ジェットの根元にある電波源Iそのものと似たような構造をしていることが分かりました。しかも、その電波を放射するガスは円盤状の形をしており、回転速度は秒速約10kmという速さであることも明らかになりました。

さらによく調べてみると、(1)回転するガス円盤は温度が約3000度以上と非常に高温になっていること、(2)回転による遠心力と重力のつり合いから中心にある星は最低でも太陽の7倍以上の重さをもつこと、(3)円盤の直径は太陽系の80倍程度(80天文単位)で、パンケーキのふちだけが明るく電波で光っているような形か、あるいはドーナツのように中心に穴があいているリング状の形をしているかのどちらかの可能性があること、などが分かりました。研究チームの一員である本間氏は語ります。「今回の研究によって、過去の研究結果を矛盾なく理解することができ、さらに電波源Iの正体を明らかにすることができました。これはアルマ望遠鏡のおかげでより高い周波数で、かつ、高い解像度で観測できるようになったためです。さらにVERAによって精度よく距離を測定できていたおかげで、円盤の広がりなどの物理量も高い精度で見積もることができました。」

今回の観測結果から、電波源Iの正体はガス円盤からの電波放射ということがはっきりしました。長年論争が続いていた、ジェットか?ガス円盤か?という論争に決着をつけたのです。

アルマ望遠鏡で観測された電波源I周りの高温水分子ガスからの電波放射とVERA望遠鏡で観測された一酸化ケイ素分子からのメーザー放射電波源Iの想像図

図3. アルマ望遠鏡で観測された電波源I周りの高温水分子ガスからの電波放射とVERA望遠鏡で観測された一酸化ケイ素分子からのメーザー放射(左図)、および、電波源Iの想像図(右図)。
左図のカラーは水分子が出す電波の動きを示したもので、左下の青色の部分は手前に近づくガス、右上のオレンジ色の部分は奥へ遠ざかるガスを示しています。これは、右図のように、回転する円盤を真横から見ていると考えられます。一方で、水分子ガスからの電波の外側にあるグレーで示した一酸化ケイ素分子からのメーザー放射は、右図のように円盤から噴き出すジェットの根元を見ていると考えられます

さらに、大質量星形成の謎にせまるという意味でも、本研究は重要です。生まれたばかりの星の周りに円盤が存在していることは観測からよく分かってきていますが、大質量星の周りの円盤の性質は、これまでの観測では解像度の限界のためによく分かっていませんでした。

今回の観測結果は、電波源Iのような大質量星も、太陽系や太陽と同じような中小質量星と同じように、回転ガス円盤を通して物質が重力で集まることによって生まれる、という説を強く支持します。