本研究があたえるインパクトと今後の展開

科学的側面:ジェットの形成メカニズムの解明に向けて

 本成果はミリ波・サブミリ波VLBI を用いたジェットの研究の幕開けともいえる成果です。本成果は1.3 mm 帯で見えるジェットのより根元の部分の構造は低周波でみえている構造とは大きく異なることを示しました。3C 279 ではガスの噴出する向きが根元で変わる現象が捉えられ、NRAO 530 ではこれまでの観測で分かっていた領域よりもさらに上流の部分でジェットが曲がっていることが明らかになりました。これらの現象はジェットがなぜ曲がるのか、どこで曲がるのかを知る上で大きな手がかりになります。そしてそれはジェットがどのようにして噴出するのか、ジェットがどのように進んで行くのかという、ジェットに関する基本的な謎を理解する上で重要な情報となります。今後、研究チームはEHT に参加する世界中の科学者と議論を重ねながらこの成果を学術論文にまとめる予定です。

 また今回見えた現象をより詳しく調べる次のステップとして、これまでとは違う方向に噴出したガスがどのように運動していくかを調べることが上げられます。これはジェットの物理的な構造やその中をガスがどのように運動しているかを知るために重要な手がかりとなります。今後、研究チームは国立天文台が保有するVLBI 観測装置VERAなどの世界中のVLBI 観測装置を用いて今回検出された電波で明るいガスがどのように運動して行くのかを調べていく予定です。

 今回の観測結果は、ミリ波・サブミリ波VLBI による観測のごくごく初期の成果にしか過ぎません。今後、参加する望遠鏡の増加や観測装置のアップグレードにより、撮像できるジェット天体は増え、捉えられる構造はより複雑になり、解像度もさらに向上していくことが期待されます。EHT はジェットの形成メカニズムの解明に向けて、さらなる手がかりを掴んで行くために、今後も精力的に研究して行きます。

技術的側面:ブラックホールの直接撮像に向けて

天の川銀河の中心(いて座 A*) おとめ座 A (M87)
図:理論計算から予測されるブラックホールの見え方の例

 

本成果は、1.3 mm 帯でのVLBI で天体の画像を得ることに成功した世界で2 例目のケースです。本成果で達成した60マイクロ秒角を切る解像度は、私たちの地球から最も大きく見えるブラックホールの直接撮像に必要な解像度と考えられている数10 マイクロ秒角に肉薄するものです。この成果は、EHT が目指す現代科学の究極の目標の一つであるブラックホールの直接撮像に向けてまた一つ、大きな一歩を踏み出したことを意味します。

今回の観測では3箇所にある電波望遠鏡を使いましたが、これらの超巨大ブラックホールを直接撮像するためには、観測に参加する望遠鏡の数を増やしたり、望遠鏡の中にある観測装置をよりよいものにしていくことが必要です。今後、数年以内に超巨大ブラックホールの直接撮像を達成することを目指して、EHTは国立天文台がチリに保有するASTE 望遠鏡や現在建設中のALMA 望遠鏡等、世界各地にあるミリ波・サブミリ波望遠鏡を観測網に取り入れながら、精力的な研究活動を行って行きます。


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<-- 観測結果 - 人類史上最高の視力で見た活動銀河 3C 279とNRAO 530のジェットの根元の姿