研究の背景:超巨大ブラックホールとジェットの謎

 宇宙に無数にある銀河の多くには、その中心に超巨大ブラックホールがあります。その中でも活動性の高いものは、光速に近い速さまで加速されたジェットを噴出しています。ジェットは、ブラックホール近くから放出されるプラズマ粒子の流れで、極めて大きい速度(最大で光速の99%)を持ち、非常に細く絞られていることが大きな特徴です。しかし、ジェットがブラックホールの近くからどのようにして放出・加速されるかはまだ詳しく解明されておらず、現代天文学上の大きな謎として残されています。

 M87はそのようなジェットを出している超巨大ブラックホールの中で私たちの住む銀河系に最も近い天体です。そのため、ジェットの放出・形成を調べる上での最重要天体で、これまでにも多くの観測が行われています。M87のブラックホールは太陽の約62億倍の質量を持ち、その見かけの大きさ(ブラックホールの視直径)は約15マイクロ秒角(約2400万分の1度)です。この見かけの大きさは、天の川銀河の中心にある超巨大ブラックホールいて座Aスター(Sgr A*)に次いで、全天で2番目の大きさです。従ってM87はジェットの詳細な研究やブラックホールの直接撮像を目指す上で最も注目されている天体です(図1)。

 図1:すばる望遠鏡によるM87の光学写真(上)、波長15 cmのジェットの電波写真(右下)、波長7 mmのジェットの電波写真(左下)。波長7 mmで一番明るい電波コアはブラックホールの場所にほぼ一致していることが知られている。

 

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