国立天文台の秋山和徳博士と本間希樹教授を含む国際研究グループは、超巨大ブラックホールを取り巻く磁場の構造を明らかにするため、私たちが住む天の川銀河の中心に存在する超巨大ブラックホール「いて座A*(エースター)」を観測しました。いて座A*は質量が太陽のおよそ430万倍であり、地球に最も近い超巨大ブラックホール(距離およそ25,000光年)です。しかしその直径はおよそ2600万kmであり、太陽の約20個分の幅でしかありません。このため、地球から見た時の見かけの大きさはわずか10マイクロ秒角(角度の1度の3億6000万分の1)となります。ブラックホールの強い重力によって空間がゆがむため、ブラックホールの姿も5倍程度に拡大されて見えると考えられていますが、それでもこの周囲の様子を明らかにするには非常に高い解像度の望遠鏡が必要です。

 

そこで研究チームは、米国カリフォルニア州にあるCARMA(注1)、アリゾナ州にあるSMT(注2)、ハワイ州にあるSMA(注3)とJCMT(注4)という3か所の4台の電波望遠鏡をVLBI(超長基線電波干渉法)という技術を用いて結合させ(図2)、直径4000kmに相当する巨大な電波望遠鏡を構成して波長1.3ミリメートルの電波の観測を実行しました。これにより約50マイクロ秒角の解像度を実現し、いて座A*の周囲の様子をついに詳しく調べました。今回の観測は特に、これまでの観測に比べてより一層の高感度化によって偏光の計測が初めて可能になったことが最大の特徴です。

 

図2. 今回用いた観測網の配置図。米国の三か所・4局からなるミリ波・サブミリ波望遠鏡を使用して、VLBI(超長基線電波干渉計)観測を行った。

 

注1. CARMA(Combined Array for Research in Millimeter-wave Astronomy)は、カリフォルニア工科大学、カリフォルニア大学バークレー校、イリノイ大学、メリーランド大学、シカゴ大学が共同で運用する電波望遠鏡。カリフォルニア州にあり、パラボラアンテナ23台からなる。

注2. SMT(Sub-Millimeter Telescope)は、アリゾナ大学が運用する直径10mの電波望遠鏡。

注3. SMA(Sub-Millimeter Array)は、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターと台湾中央研究院天文及天文物理研究所が共同で運用する電波望遠鏡。ハワイ島マウナケア山頂にあり、直径6mパラボラアンテナ8台からなる。

注4. JCMT(James Clark Maxwell Telescope)は、東アジア天文台が運用する直径15m電波望遠鏡。ハワイ島マウナケア山頂にある。

 

<-- トップページへ戻る

--> 次ページ(得られた結果)へ