今回研究チームは、いて座A*からやってくる電波の偏光(電波の場合偏波ともいう)を詳しく調べました。いて座A*からの電波はブラックホール周囲の高温ガス中の電子が磁力線に巻きつくような動きをすることによって放射されていると考えられています。このような電波は強い偏光を持ち、偏光の向きや度合いは磁場の構造によって決まります。このため、偏光観測は磁場を探るための重要な手段なのです。

 

観測の結果、いて座A*のブラックホール半径の6倍程度の領域から出る放射が、直線的に偏光している様子が初めて計測されました。また今回計測された偏光の度合いから、いて座A*のまわりの磁力線は一部が渦を巻いていたり複雑に絡み合ったりしていることがわかりました。研究チームは「絡まったスパゲッティのようだ」とコメントしています。さらに研究チームはブラックホール周辺の磁力線はどこまで細かく拡大しても際限なく絡み合っているのではなく、ブラックホール1,2個分の大きさぐらいの空間スケールまで拡大するときれいに整列していることを明らかにしました。

 

 研究チームとともに偏光データの解析に携わった秋山和徳氏は、「スパゲッティのお皿全体を見渡すと麺が複雑に絡まっていますが、細かい部分を良く見るとある部分では麺が整列している様子が見られるでしょう。私たちはブラックホールに非常に近いところで磁場が存在することを明らかにしただけでなく、かつてない高解像度の観測によって磁力線が揃うような非常に細部の構造までとらえることに成功したのです。」とコメントしています。

 

しかもこうした磁場構造は、15分程度の短い時間の間に変動していることもわかりました。論文の筆頭著者であるマイケル・ジョンソン氏(米国ハーバード・スミソニアン天体物理学センター)は、「天の川銀河の中心部が想像以上に活動的であることが、今回の観測でも明らかになりました。超巨大ブラックホールのまわりを、磁場はまるでダンスするように動き回っているのです。」とコメントしています。

 

図3. 今回の観測で得られた、様々な基線ごとの偏光の度合い。図上の各点は観測局間を結ぶベクトルに対応し、各位置の線の色が偏光の度合い、その向きが偏光の方向を表す。赤いところで特に強い偏光が得られており、基線の長さからブラックホール半径の5~6倍程度の大きさに相当する放射に対応する。

 

図4.今回観測された偏光成分の強度を説明可能なモデル。A, B, Cはそれぞれ球状の放射に異なる偏光パターンを加えたモデルで、磁力線の向きが変化する空間的なスケールが異なる(Aはスケール大、Cはスケール小)。Dは、ブラックホール周囲のガスを詳しいシミュレーションで計算したもの。以下のB、Dのケースは観測と合致するが、A, Cは観測とは合わない。このような比較から、磁場が変化する空間的なスケールが推定される。

 

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