ブラックホールの画像から一般相対性理論を含む多様な重力理論を初検証

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2019年、イベント・ホライズン・テレスコープ (Event Horizon Telescope, EHT)国際協力プロジェクトのチームは、楕円銀河M87の中心に位置する巨大ブラックホールの最初の画像を発表しました。今回、EHTの研究者たちは、アインシュタインの一般相対性理論を検証するためにEHTの観測で得られたM87巨大ブラックホールのデータを分析しました。検証によると、ブラックホール・シャドウの大きさは、一般相対性理論で見事に説明できます。さらにほかの重力理論で同様に検証したところ、それらの理論でM87のブラックホールを表現する余地も残されていることがわかりました。

ドイツの天文学者カール・シュヴァルツシルトが最初に指摘したように、ブラックホールでは異常なまでに中心に質量が集中することで、時空が大きく曲げられます。中心のブラックホールへ落ち込む物質は熱せられ光り始めますが、ブラックホールの『端 』である事象の地平線を境に光や物質が逃げられなくなるため、ブラックホールは『黒く』見えます。質量、回転、そしてまとめてチャージと呼ばれる物理量のみがブラックホールを理論的に表現するためには必要だと考えられています。

ブラックホールを表現する式は、アインシュタインの一般相対性理論だけでなく、物質やすべての粒子を小さなひものゆらぎとして記述する超ひも理論にヒントを得た重力理論も考えられます。超ひも理論で表現したブラックホールは、基礎物理学に対して新しい場を追加する必要があるため、一般相対性理論で表現した場合と比べてその大きさや時空のゆがみ具合いが観測可能なほど変化します。

EHTによって2019年に発表されたM87巨大ブラックホールのシャドウの画像は、2015年の重力波の測定に続き、ブラックホールが実在することを証明する最初の実験的証拠となりました。今回、EHTのメンバーでありフランクフルト大学理論物理学研究所の物理学者であるプラシャント・コチャラコタ博士とルチアーノ・レッツォーラ教授率いる研究チームは、楕円銀河M87の中心にあるブラックホールの観測データと、これらの異なる重力理論が適合するかを初めて調査しました。

[画像1] さまざまな重力理論における事象の地平線 (Horizon) のサイズ。ブラックホール・シャドウ (Shadow) の大きさもそれぞれ異なり、シャドウが灰色の領域 (EHT allowed region) にくる理論だけが、2017年にEHTで観測したM87巨大ブラックホールの結果と一致します。下の赤丸で表した理論モデルは、小さすぎるためM87巨大ブラックホールのモデルにはなりません。(画像クレジット:P. Kocherlakota (Univ. Frankfurt), EHT Collaboration & Fiks Film 2021)

その結果、M87の観測データは、アインシュタインによる一般相対性理論と見事に一致し、超ひも理論に基づく重力理論ともある程度一致していることが分かりました。プラシャント・コチャラコタ博士はこう説明します。「EHTの観測で得られたブラックホールの画像を使ってさまざまな物理学の理論を検証することができるようになりました。現在のところ、M87のブラックホール・シャドウの大きさからは、一般相対性理論以外の重力理論の可能性を否定することはできませんが、今回の計算により、これらのブラックホール解の有効範囲を制限することができました。」

ルチアーノ・レッツォーラ教授は次のように述べています。「私たち理論物理学者にとって、ブラックホールという概念は、悩みの種であると同時にインスピレーションの源でもあります。私たちは、事象の地平線や特異点など、一般相対論から計算されるブラックホールの描像にいまだに悩まされており、一般相対論に代わる他の重力理論で新しい解決策を見つけたいと常に思っています。我々のような結果を得ることで、何がもっともらしくて何がそうでないかを判断することは非常に重要です。」さらに上海交通大学李政道研究所の水野陽介准教授は「今回の結果は重要な第一歩であり、今後、新たな観測が行われれば、我々の制約条件も改善されていくでしょう」と結論づけました。

論文情報

本研究成果は、2021年5月にフィジカル・レビューD誌で報告されました。 論文へのリンク

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