ベルリンで学ぶ惑星科学

2023-02-07

我らがサムライブルーの快進撃から早くも1ヶ月以上が経ち、日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか?手に汗握る展開続きで寝不足だった日々が、少し懐かしくなってきている頃でしょうか?

 

そんな日本代表が初戦で撃破したサッカー大国にあるドイツ航空宇宙センター (略称DLR) において、私は現在1年間の研究滞在の最中です。この記事ではドイツ滞在記として、これまでのドイツ・ベルリン生活の一部をご紹介しようと思います。

 

DLR

(DLRは欧州の惑星探査の中心の一つであり、研究所内にはこれまで関与してきた探査機等の展示があります。右で青くライトアップされているのは皆さんお馴染みの「はやぶさ2」とその小型着陸機MASCOTです。)

 

「ドイツ生活」といっても基本的に平日は日本での研究生活と大きくは変わりませんが、日本とは異なる面は勿論いくつもあります。個人的に特に印象的だったのは、夜遅くまで研究所に残れないことです。(これが良いかはさておき)日本では夜9時でも明かりの灯った研究室が見受けられる一方、DLRは19時になると帰宅しなければなりません。家族との時間を大切にするという文化も相まってか、18時以降まで残っている人は稀です。代わりに9-15時のコアタイムが設定されており、朝早くから会議があることも屡々です。元々かなりの夜型人間だった私は、お陰様で健康的な生活サイクルを手に入れました。朝から頭が冴え渡るように感じ、作業効率が上がったような気がしますね。やはり良い研究は良い生活からということでしょうか(笑)

 

このように家族に重きを置くドイツでは、研究所内でもコミュニケーションを大切にしている節を多々感じます。例えば、日本の時と異なり、毎日12時になると同じ研究グループの同僚たちとランチに行っています。いつも近くのフンボルト大学の学食に行き、その後カフェでコーヒーを片手にお喋りする昼休憩を過ごしています。ちなみに、よくネット上でドイツ人は真面目な話題を好むと書かれていますが、確かに政治や社会問題が度々話題に上がっている気がします(勿論趣味や生活の話題のほうが多いですけどね)。

 

DLR lunch menber

(いつものランチメンバーとパシャリ)

 

また、外国人研究者が多いDLRでは言語面のサポートが手厚いです。普段の会議は基本的に英語で行われ理解しやすい上、希望者はドイツ語の授業も受けさせてもらえます。中高時代の古文の授業を思い出すかのような複雑な動詞の活用に苦しみ楽しみつつ、ドイツ語の宿題に追われる夜も少なくありません。流石に半年以上習った成果か多少は慣れ、簡素な会話であればできるようになってきました。一方で「ドイツ語の練習だ!」ということなのか、心なしかランチタイムの会話のドイツ語率が上昇しているような…。休日の予定等の簡単な話なら兎も角、頭に?マークを浮かべつつ知っている単語から会話の内容を推測する日々です。

 

さて、そんなDLRで現在行っている研究は「レーザー高度計でどんなパルスが受信できるか?」です。日欧共同ミッションとしてBepiColomboという水星探査計画が行われていますが、そのレーザー高度計(通称BELA)開発の主要メンバーが受け入れ先のDLRの測地グループです。はやぶさ2のLIDAR※1と同様、BELAもレーザーパルスを送信し、天体表面で反射したパルスを受信することで、その到達時間から距離を算出することができます。BELAの場合は更にその反射パルスの形状自体も観測することができます。

 

BELA説明図

(クレーターにレーザーパルスが当たった場合の例。)

 

例えば、クレーターにレーザーパルスが当たった時を考えてみましょう。パルスは水星表面に到達するまでに広がり、パルスはクレーター内部と周囲の平らな箇所に当たります。クレーター内部は凹んでいるので、クレーター内のほうが探査機までの距離が長くなり、周囲よりも内部からの反射パルスが遅れて探査機に届くようになります。その結果、元々送信した1つのレーザーパルスが、2つのピークを持つようなパルスとして受信されるのです。このような原理を用い、受信したレーザーパルス形状から小地形の情報をどう得ることができるかを研究しています※2。このようにパルス波形自体を計測するのは惑星探査ミッションとしては初の試みです。BELAでの実際の観測が始まるのは3年ほど先なのでまだ予想の範疇ですが、実際の観測データが得られる日を夢見て心を躍らせつつ、コード作成と論文執筆に明け暮れています。

 

 

当然ながらドイツ生活は研究だけではありません。休日はというと、書き出しから察せられるように…

 

ヘルタベルリン

(2022/10/23 ブンデスリーガ第11節 ヘルタ・ベルリン vs シャルケ04。ゴール直後で皆タオルを振り回しています。因みに、ペナルティーアークに一番近い緑色のユニフォームを着た選手は、日本代表キャプテンの吉田麻也選手です。)

 

サッカーですよね!

 

現在ベルリンの2チーム(ヘルタベルリン & ウニオンベルリン)がドイツ1部リーグのブンデスリーガに所属しています。DLRの優しい同僚たちに連れられ、到着後すぐに2チームとも観戦することができました。ヘルタのホームスタジアムは元々1936年のベルリンオリンピック時に建設され、その巨大な観客席を埋め尽くす多数のホームサポーターの青い迫力は、まるで埼玉スタジアムに来たかのような感覚でした。Torrrrrr!(ドイツ語でゴールの意)のアナウンスと共に盛り上がり、一斉に始まるチャントの大合唱は鳥肌必至です。

 

ウニオンベルリン

(2022/4/29 ブンデスリーガ第32節 ウニオン・ベルリン vs グロイター・フュルト。原口元気選手も先発でした。)

 

一方、ウニオンベルリンはサポーターの会費によって成り立つ市民クラブ。そのサポーターは新スタジアムの建設時に工事を無償で手伝うほどクラブに愛情を注ぎ、DLRの同僚の1人もそれに加わったと自慢げに話してくれたのが印象的でした。ギュウギュウに詰まった観客席ではゴール時にはビールが飛び交い、ヘルタとは異なるベクトルの熱狂が楽しめます。Jリーグとはまた違った感動がそこにはありました。特に今は多くの日本代表選手がブンデスリーガでプレーしていますので、サッカー好きには最高の国ですね!

 

他にもドイツには見所が沢山あります。ビール?ソーセージ?それともベルリンの壁?色々な意見があるとは思いますが、個人的な推しは古城巡りです。折角なので、自分が見た中でオススメなお城2選を紹介したいと思います。

 

 

城

(左:山上に佇むホーエンツォーレン城。右:クリスマス仕様のケーニヒシュタイン要塞内部)

 

まず一つ目にご紹介したいのはホーエンツォレルン城(Burg Hohenzollern)。南ドイツに位置するこの古城は、日本の竹田城の如く小高い山の上にあります。この城の主はホーエンツォレルン家であり、後のプロイセン王国の王家の祖でもあります。そんな由緒正しき城にハイキングとして行ってきました。羊が寛ぐ牧草地を抜け、森の中を登り、最後に頂にある城に至る、片道1時間ほどの気持ちのよいルートでした。城内部も観覧でき、当時の煌びやかな部屋はさることながら、「白い婦人」と呼ばれる幽霊が出る地下通路がひんやりとしていて趣がありました。ハイキングと城巡りが好きな方は必見です。

 

二つ目はドレスデン近郊に位置するケーニヒシュタイン要塞(Festung Königstein)です。ドレスデン東部のドイツ・チェコ国境近くの地域には特徴的な奇岩帯があり、ザクセンのスイスと呼ばれる観光スポットになっています。ケーニヒシュタイン要塞はその地域の山の上に位置し、エルベ川一帯を一望できるスポットです。ちょうど訪れた時期が12月半ばだったので城内でクリスマスマーケットが開かれており、雪に覆われたザクセンの景色を肴に飲むグリューワインがたまりませんでした。やはり本場のクリスマスはおとぎ話の世界のようで格別ですね…

 

このように平日はドイツ語に揉まれつつ研究に勤しむ傍ら、休日に本場のサッカーと古城を楽しむ日々を過ごしています。ドイツに慣れて生活が更に楽しくなっているところですが、気がつけばこの研究滞在も残り2ヶ月を切りました。早いものだと(ちょっぴり)寂しくなりつつ、残りのドイツ生活を精一杯楽しんでいきたいと思います。

 

Auf Wiedersehen!

(文責:西山学)

 

※1: https://www.miz.nao.ac.jp/rise/c/instrument/lidar

※2: https://meetingorganizer.copernicus.org/EPSC2022/EPSC2022-326.html