人工衛星とか相関器とかをつくっていると、できあがるまでに時間がかかるでしょう。それがフラストレーションになるんですよ。それで何を始めたかというと、料理なんです。
なんと!小林さんは料理男子でしたか。
宇宙研にいたころから料理男子です。料理は結果がすぐ出るでしょ(笑)。しかも、おいしい、まずいがすぐわかる。
文科省との交渉は、どのようにしているのですか?
たとえば税金の使い道は、社会保障とか公共事業とか、必要なことが多々あるわけですよね。その中で「こんな研究できますから予算をください」なんて言っても通じない。どうして学術研究をするのか、それを明確に説明しないといけないわけです。
どんな説明をされるのか、教えてください。
私の場合は、100年後、200年後、1000年後に何を残しますか?という説明をします。今の日本人が未来に残せるもの、それは知識と教育しかないんですよね。
先ほど競争という言葉が出ましたが、協力関係の中でどのような競争をしているのですか。
競争というのはプロジェクトではなく、個々の研究者の競争です。望遠鏡をつくったりネットワークを組むのはコラボレーション。観測する時もお互いに信頼して役割を果たす。けれども個々の研究テーマは熾烈な競争をしていかないといい研究成果が生まれない。科学とはそういうものだと理解して、その切り替えをうまくやる必要がありますね。
国際協力におけるマネージメントについても教えてください。
国際協力プロジェクトの代表はアルマとTMTですが、VLBIにも私が仕掛けていった国際協力プロジェクトがあります。韓国と中国、最近はタイも加えて、東アジアにおけるVLBI観測網の組織化を推進しています。
組織化といってもね、最初は何にもないわけ。そもそも韓国だって最初は14mの電波望遠鏡1台しかなかった。そこに行って「VLBIをやりましょう、新しく望遠鏡を作って日本の望遠鏡と結合すると、こんな新しい研究ができますよ」と言って口説くんです。それで韓国は3台の電波望遠鏡を作りました。
副台長の仕事についてお聞きします。普段どんなことをされているのでしょうか。
私は天文台の財務を担当しています。予算を獲得して、それを台内の各プロジェクトにVERAはいくら、野辺山はいくら、アルマはいくら…と配分する仕事です。
ひゃ~!各プロジェクトの予算は小林さんのさじ加減にかかっているんですね。各プロジェクトに予算を配分するまでの流れを教えてください。
2000年に補正予算でVERAの建設予算60億円が認められ、本格的に建設がスタートしました。補正予算というのは12月ごろに組む予算で、本来は3月までに望遠鏡を完成させなければならないんだけど、実際は無理だから1年は延ばしてくれるんです。
まさか、その60億円を1年で使い切らないといけないんですか?
そういうことです。1局が20億円。だから1年間で水沢と入来と小笠原の3局をつくって60億円。1年間に使ったお金としては、アルマと並んでVERAも最高記録です。
はじめに小林さんの研究分野について教えてください。
私は大学院生の時、野辺山宇宙電波観測所で、直径10mの電波望遠鏡6台で同時に観測する「ミリ波干渉計」で、メーザーという強い電波を出す天体の研究をしていました。当時はまだ望遠鏡が試験運転の状態。できる観測は限られていたので、位置だけ測って学位論文を書きました。それからこの世界にハマってしまったんです(笑)。
電波天文学の中の位置天文学にハマってしまった!?
千葉県育ち。野辺山ミリ波電波干渉計で学位を取得後、スペースVLBI計画のVSOPでは、衛星のシステム、観測システム、地上相関器システムの開発を進めた。VERAでは、プロジェクトマネージャとして、建設・性能出し・運用システム構築を進めた。またVERA、日本国内VLBI網の発展として東アジアVLBI網の構築を進めている。2010年から国立天文台財務担当副台長。