はじめに小林さんの研究分野について教えてください。
私は大学院生の時、野辺山宇宙電波観測所で、直径10mの電波望遠鏡6台で同時に観測する「ミリ波干渉計」で、メーザーという強い電波を出す天体の研究をしていました。当時はまだ望遠鏡が試験運転の状態。できる観測は限られていたので、位置だけ測って学位論文を書きました。それからこの世界にハマってしまったんです(笑)。
電波天文学の中の位置天文学にハマってしまった!?
そう。天体の位置を複数の電波望遠鏡で測る時には、望遠鏡同士の間隔を離すほど精度が上がるんです。野辺山のミリ波干渉計は最大で600m離せるけど、その間隔をもっと広げたいわけ。それで、何千kmも電波望遠鏡の間隔を離す「VLBI」という分野に興味を持ちました。究極にそれをやろうと思ったら、宇宙に電波望遠鏡を飛ばす「スペースVLBI」が一番いいわけです。そうしたら宇宙科学研究所(以下、宇宙研)でスペースVLBIのプロジェクトが動き出したので、自ら飛び込んでいったんです。
1989年に宇宙研に就職して1999年までスペースVLBIに携わりました。世界中の15~6カ国の人たちと一緒にやりながら、私は宇宙研でプロジェクトの取りまとめをしていました。スペースVLBI自体が世界初なので、人工衛星にしても地上の装置でも、新たにいろんなものを作らなきゃいけない。このLSIもそのうちのひとつです。
私が30代前半の頃ですけどね。あるシステムを作る時に、メーカーの工場の人たちと、天文台と宇宙研とで、「お金がないので、どうするんだ」っていう話し合いになったことがあるんですよ。
はい。
メーカーは8億円欲しいと言う。でもこちらは4億円しか出せないという状況なわけ。普通だったらもう交渉決裂だよね。そうしたらメーカーの営業取締役の人があいだに入って、「じゃあもう痛みわけにしましょう」と。おたくはあと2億出してください、工場の方はあと2億負けて6億にしなさいと言って、その場で即決しちゃったんです。
すごい!
衝撃だよね。2億とか4億のお金がそういう風に飛び交うっていうのに、ものすごくびっくりしてさ。そこからだね、私のこういう人生が始まっちゃったのは(笑)。
予算交渉やマネージメントの仕事にシフトしていったんですね。
そう。その頃にはスペースVLBIもだいぶ落ち着いてきたので、1999年に准教授として国立天文台へ移ってきました。VERAをやることになったんです。
記事公開日:2018年3月7日
千葉県育ち。野辺山ミリ波電波干渉計で学位を取得後、スペースVLBI計画のVSOPでは、衛星のシステム、観測システム、地上相関器システムの開発を進めた。VERAでは、プロジェクトマネージャとして、建設・性能出し・運用システム構築を進めた。またVERA、日本国内VLBI網の発展として東アジアVLBI網の構築を進めている。2010年から国立天文台財務担当副台長。
直径10mのアンテナ6台をケーブルでつないで同時に観測することで、最大で直径約600mの電波望遠鏡に相当する解像力で天体画像を描き出した。現在、科学運用は終了している。
MASER(Microwave Amplification by Stimulated Emission of Radiation)。誘導放射によるマイクロ波増幅。また、その原理によって天体から出される波のそろった強力な電波のこと。ちなみに、これをマイクロ波(Microwave)の代わりに光(Light)にすると、レーザー(LASER)となる。
詳しい解説はこちら VLBI用語集
恒星や他の天体の位置、距離、運動を扱う天文学の一分野。VERAも位置天文学に分類される。
超長基線電波干渉法 超ざっくり説明すると、複数の電波望遠鏡で観測したデータをかけあわせて、ひとつの巨大な電波望遠鏡と同等の性能を得る方法。
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現在のJAXA宇宙科学研究所(相模原キャンパス)
電波望遠鏡となる人工衛星を宇宙に打ち上げてVLBI観測を行うこと。