たとえばこの絵なんですけど、これが描かれたのは1854年、江戸時代の末ですよ。外国船が津波に流されて座礁している絵なんだけれど、このアサヒグラフの写真と比べてみて下さい。
2011年の東日本大震災では奥州市も震度6弱の揺れに見舞われましたね。VERAのアンテナも被災して大変でしたね。
パラボラアンテナを上下に振るギアが破損したり、停電もあって復旧するまで約5カ月かかりました。地面もものすごく動いてアンテナが元の位置から3メートルも動いていたんです。観測所全体が東南東に約3メートル移動していました。
今もその影響は続いているんですか?
はい。今でも続いていて他局とくらべると変動が大きいんです。上下の動きもあって10センチほど沈下して、じわじわ戻ってきています。
田村さんは何がきっかけで測地学の道に進まれたんですか?
地面の潮汐現象に興味を持ったのがきっかけです。私は81年の10月に水沢VLBI観測所の前身である緯度観測所に入ったんです。当時は潮汐を予測するための理論値計算の研究をしていて、潮汐の解析プログラムを作りました。
プログラムの話が出ましたが当時、田村さんは円周率の計算で世界一を達成しギネスブックに載った、という情報を得ております。
かれこれ30年も前の話だから恥ずかしいなあ。
天体観測のプロジェクトなのに地面を測っているのが不思議なんですけれど、VERAと測地がどう関係あるのか教えていただけますか?
天体の位置を精密に決めるには、まずアンテナの位置を正確に決めておく必要があるんです。そのためにアンテナの位置を精密に測っています。
この図は2013年にアンテナの位置を決める観測を行った結果ですが、一番遠い水沢局と石垣島局のアンテナの距離が、2270キロ416メートル91センチと1ミリ。
私はいま岩手県奥州市の山中にある「江刺地球潮汐観測施設」のトンネルの中にいます。VERAのアンテナがある水沢VLBI観測所から車で約30分ほどの場所ですが、田村さん、ここは何をする施設なのでしょうか?