ブラックボックスの中を手探りで

ブラックボックスの中を手探りで

平野

コンピュータプログラムを表現するプログラミング言語の文字列のことを、ソースコード(source code)と言います。TSUはメーカーが作った装置ですから、「どんなプログラムが書かれているか」というソースコードは企業秘密なのでわかりません。

マダム

まさにブラックボックス! どうやって秘密のソースコードを作り上げるんですか?

平野

ブラックボックスの入出力だけを見てソフトを組んでいきます。手元にあるのは装置の取扱説明書と、どういうデータがやりとりされているかの情報だけ。これまでプログラムを書いた経験はありますが、こんな大規模なプログラムを一から作った経験はなくて……。

マダム

それはプレッシャーですね。

平野

はい。そこで小さいプログラムを作って確かめていく方法を経験者の方にアドバイスいただき、最初はTSUとACUが話をするプログラムだけを作ることにしました。ACUの予備機を机の上において、単純なコードを書いてみて、信号のやりとりができる・できない、というレベルから確かめていきました。

マダム

プログラムを実行して、実際に機械が動くかどうかを確認するわけですね。

平野

そうです。0.1秒ごとにアンテナの角度を動かすプログラムを作る時などは実際にアンテナを動かしています。単に「90度に行きなさい」というだけの単純なプログラムを作ってみて、「信号を受けた」「動いた」というレベルから試していくんです。

マダム

プログラム開発って地道な作業の積み重ねなんですね。

平野

そうですね。でも地道なだけではダメなんですよ。機能ごとの単純なプログラムはできたんですが、そこから機能を組み合わせてひとつのプログラムを作るところで煮詰まってしまって……。

マダム

ど、どうされたんですか?

平野

国立天文台の別の部署でソフトウエア開発をしている達人に添削をお願いすることにしました。「コードレビュー」といって、私が書いたソースコードに対してアドバイスしてもらうんです。何が問題か、どこを変えたらいいか、綿密なやりとりを繰り返しながら一つ一つ現場で試して、そうやって試行錯誤をしながら3年がかりでようやく完成しました。

マダム

3年とはご苦労されましたね。

平野

大変ではありましたが、私としては観測の要となる装置開発を担当できたことは技術者として非常に嬉しいです。2020年の7月から水沢局では私が作った新しいTSUが使われています。