しし座流星群も花を添え、
      VERA小笠原観測局で開局式典

 

 しし座流星群とVERA小笠原局20mアンテナ

 しし座流星群とVERA小笠原観測局の電波望遠鏡(「しんぶん赤旗」提供)

 「VERA望遠鏡は、天体の非常に細かいところまで見えます。そうですね、小
笠原で例えると月面上置いた海亀の卵、それよりもっと小さな、そう卵から生
まれた海亀の赤ちゃんの頭がきょろきょろと右に動いたか、左に動いたかが見
えるんです」
 11月17日、VERA小笠原観測局の開局記念式典は、こんな観山台長代理(副台
長:企画調整主幹)の挨拶で始まりました。VERA観測局としては、水沢局(岩
手県)、入来局(鹿児島県)に続く3番目の開局式典で、父島の小笠原村福祉
センターに、小笠原村、国立天文台などの関係者70余名が参加しました。VERA
室の笹尾統括責任者からは、VERA計画の概要やなぜ小笠原・父島を選んだのか
などの説明が、ブッシュ元大統領の戦時中の父島でのエピソードなどもまじえ
行われ、「研究成果をあげることで、“小笠原”という名を世界に広げたい」
との決意表明がありました。小笠原村からは、水落村長代理(助役)が、「こ
の島に最新鋭の科学研究の装置を設置して頂き感謝する」と歓迎の言葉が述べ
られ、田教育長からは「小笠原の教育や文化、観光の発展に役立つように」
という期待が述べられました。
 村議会の池田議長代理(副議長)からは、「子供の頃から『銀河鉄道の夜』
が大好きで、何度も読み返している。小笠原の星空は美しく、戦争で一時島を
離れたが、この星空がまた見られるようにとみんな願っていた。平和になって
島に戻り、星空を見上げた時の感動を島の人たちは忘れていない。本土から遠
く離れた不便な場所と思っていたが、天の川の立体地図を作るのには、離れて
いることが逆に重要だとお聞きして大変うれしい。10年、20年かかる大仕事の
ようだが、よい成果が生まれるよう協力していきたい」と、村民の喜びを代表
するようなご挨拶をいただきました。
 式典では、東京から南に海上1000kmも離れ、船便しかない困難な状況の元で
VERA観測局の建設にご苦労いただいた企業6社への感謝状贈呈がおこなわれま
した。また祝電が、水沢局のある水沢市と入来局のある入来町、望遠鏡の製作
を担当した三菱電機などから届き、代表して福元入来町長からの「VERAを通じ
て、お互いに交流を深めましょう」という内容が、式典の司会を務める河野地
球回転研究系主幹から披露されました。

 開局記念式典

     開局記念式典。挨拶しているのは観山企画調整主幹

 続いて、標高307mの夜明け山のVERA小笠原局に移動し、完成した望遠鏡や設
置された観測機器を見学していただきました。午後からは、再び福祉センター
で懇親会が開催され、ここでも地元の方々から、歓迎のことばをいただきまし
た。観光協会の山田さんからは、「海の美しさに加え、星空も観光に取り入れ
たい。星空観望会用の光学望遠鏡で、島の子供たちや観光客もいっしょに天体
を鑑賞できる観望会を定期的に開催したい」という計画が述べられました。あ
ちこちの席では、「母島だと、あの場所が星を観るにはいいのでは」「星の会
もできたので、望遠鏡を自分でも使えるようになろう」「天文台の先生の講演
会もいっしょにしたい」といった会話がはずんでいました。乾杯の音頭を取ら
れた辻田管理部長は、「こんなにも歓迎され、期待されるとは…」と喜び、国
立天文台の果たす役割の重要性を感じられていました。

 見学

      観測棟で装置を興味深く見学する式典参加の方々

 見学

     施設公開で、天文台スタッフの説明を聞く見学の方々

 国立天文台では、この開局記念式典に合わせ、写真展や宇宙講演会、施設一
般公開、星空観望会も開催しました。写真展は好評で、期間中の会場には見学
者が絶えませんでした。真鍋水沢観測センター長と観山主幹による宇宙講演会
は、会場に用意したイスが足りず、急きょ増やしましたが、天文台関係者は立
ち見という盛況ぶりでした。施設の一般公開では、観測棟内に用意したパネル
や観測機器の前で、VERA推進室のメンバーが1日中交代で説明にあたりました。
外は11月中旬なのに、まだ夏のような気候で、緑が広がる林の中に真っ白な直
径20m重さ400トンの巨大な望遠鏡が青空に美しく映えていました。望遠鏡を動
かす実演では、いろんな方角に静かにすばやく動くさまに、「すごーい」と歓
声をあげ、しばし見惚れていました。見学のみなさんは、とても熱心で質問も
多く、良い交流の場になりました。星空観望会は、あいにくの曇り空で17日は
中止。18日は、用意した光学望遠鏡の説明、OHPやパソコンとプロジェクター
を使ったスライドショーに変更し、美しい銀河や惑星、彗星の写真を亀谷さん、
官谷さんの解説で楽しんでいただきました。
 この18日の夜には、しし座流星群をなんとしても見たいという人たちが、深
夜1時過ぎから観望会場だった公園や、観測局に集まって来ました。しかし、
薄雲が広がったままで、3時頃にはあきらめて帰りだす人も出始めました。と
ころが3時10分過ぎ、突然に流星が飛び交う星空が一面にひらけ、暗闇のあち
こちから歓声と拍手が起き、しばし本物の宇宙ショーを楽しむことができまし
た。観測局の庭から、入来観測局の鹿児島大の面高さんに携帯電話をすると、
「流星は、ばんばん流れていて、こちらはずーと始めから、大勢で見ている」
との返事。このやり取りを聞いていた私たちの定宿「グリーンヴィラ」の奥山
さんは、「VERAは、4局で同時に同じ星を観るということですが、鹿児島でも
小笠原と同じ流星を観ているのですね」と感慨深げでした。
 今回の小笠原への片道25時間の航海は穏やかで、「往復ともこんなのは珍し
いよ」と小笠原局建設を担当して十数回往復している水沢観測センターの堀合
さんも驚くほどでした。島を離れる際、小笠原丸を見送る小船が何艘も、いつ
までも追いかけてきました。いつもの感動の景色ですが、式典で参加者から
「天文台の方々は、島の者たちと話ができる」と言われ、かたい握手をされた
ことを思い出し、いつまでも手を振ってしまいました。
 今回の開局式と関連行事に際しては、一週間以上にわたり、村役場や観光協
会の方々には大変なお世話をいただきました。深くお礼を申し上げます。VERA
観測局では、これから本格的な観測開始まで多くの作業が始まります。この航
海も穏やかな日々だけではないでしょうが、私たちは一層気を引き締めて取り
組む決意です。関係者のみなさんには、この間のご支援に感謝するとともに、
引き続きのご協力をお願いいたします。

「国立天文台ニュ−ス No.103より転載」
        <野辺山宇宙電波観測所・VERA推進室 助教授 宮地竹史>