今回、研究チームは2つの活動銀河 3C 279、NRAO 530 を観測しました。これらの天体は私たちがいる地球からそれぞれ約53 億光年、約73 億光年と非常に離れた距離にありながら明るく輝くクエーサーとよばれる種族に分類される活動銀河で、ブラックホールからのジェットをほぼ正面から見ていると考えられている天体です。波長 1.3 mm 帯のVLBI 観測が明らかにした両天体のジェットの根元の部分の構造はこれまでより長い波長帯で見えていたジェットの構造とは大きく異なることが分かりました。

3C 279 の観測結果

 

図1: 3C 279の観測結果。地上から空を見上げた画像であるため方角は地図とは裏返しになっています。中央の成分と北西の成分が北北西の方向に伸びた構造をしているのは望遠鏡の視力がその方向に悪く像がぼやける見かけの効果が原因です。(画像クレジット:国立天文台)

 3C 279 ではこれまでに観測されていた南西に向いたジェットとは大きく異なる北西の方向に新たな成分が噴出している様子が観測されました(図1)。この観測結果はジェットの根元部分でジェットの向きが曲がっていることを示しています。観測された画像では大きく向きが異なりますが、これはクエーサーではジェットが私たちの方を向いているためにおこる見かけの効果によるもので、実際は観測された画像よりも緩やかにジェットは曲がっていると考えられます。

 

図2: 本観測結果と他の波長帯の観測結果から推測される3C 279 のジェットの構造(画像クレジット:国立天文台/AND You Inc.)

 本観測結果と他の波長帯の観測結果をもとに現在、研究チームが推測している3C 279 のジェットの構造は次のようなものです(図2)。3C 279 ではガスの噴出している方向がこれまで観測されてきた過去のジェットの向きから変わったことによって、このような電波画像が得られたと考えられます。このようにジェットの根元の部分でガスが噴出する向きがこれほど大きく変わった現象はこれまで捉えられた例が少ない現象で、ジェットがどのようにして噴出されるのかを紐とく上で大きな手がかりになることが期待されます。

NRAO 530 の観測結果 

図3: NRAO 530の観測結果。地上から空を見上げた画像であるため方角は地図とは裏返しになっています。観測されたジェットの成分の構造が南北に伸びているのは、望遠鏡の視力がその方向に悪く像がぼやける見かけの効果が原因です。(画像クレジット:国立天文台)

 NRAO 530 でもこれまで見えていたやや北向きのジェットとは異なるやや西向きにガスが噴出している様子が観測されました(図3)。こちらも3C 279 と同様で、観測されたジェットの曲がり方は見かけ上のもので、実際は観測された画像よりも緩やかにジェットは曲がっていると考えられます
 

図4: 本観測結果と他の波長帯の観測結果から推測されるNRAO 530のジェットの構造(画像クレジット:国立天文台/AND You Inc.)

 本観測成果と他の波長帯の観測結果をもとに現在、研究チームが推測しているNRAO 530 のジェットの構造は緩やかに曲がっており、本観測で得られた画像は新たに噴出した電波で明るいガスが曲がったジェット中を移動しているところを写したものだと考えられます(図4)。これまでの研究でジェットの根元から離れた下流の部分で曲がっていることがわかっていましたが、本成果によってこれまで見えていなかった上流の根元の部分においてもジェットが曲がっていることが明らかになりました。


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※1 ジェットがこちらを向いているための見た目の効果

これは手でピースサインや指を曲げて「く」の字を作って、指が指している向きから見てみると分かり易いです。指が指している向きからみると実際の曲がり方よりも大きく見えるはずです。