ブラックホールとは?
ブラックホールは、アインシュタインの一般相対性理論で予言された、非常に強い重力を持った天体です。その重力が作り出す事象の地平面 (Event Horizon) と呼ばれる面の中からは、光を含む一切の情報を取り出すことができません。事象の地平面のごく近傍で、強い重力に捕捉された光子は、一部はブラックホールに吸い込まれてしまいますが、一部は重力によって軌道を曲げられて、外へ飛んでいきます。そのちょうど境界の領域を、光子球と呼びます。光子球よりも内側に入った光はブラックホールに吸い込まれるため、この光子球が電磁波で観測できる限界の領域です。内側の暗い部分 (ブラックホールシャドウ) を撮影できれば、ブラックホールによって光が脱出できなくなる現象を捉えた確かな証拠になります。事象の地平面の直径は、ブラックホールが無回転の場合に最も大きくなりますが、シャドウの直径はそれよりもおよそ2.5倍大きくなります。
イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)とは?
イベント・ホライズン・テレスコープ (EHT) は波長の短いミリ波帯 (1.3mm) を用いて、地球直径に匹敵する10000kmもの基線長でVLBI観測を行います。それによって、地上の観測装置の中では最高の視力である300万、解像度にすれば20マイクロ秒角もの空間分解能を達成します。2017年の観測には、APEX(チリ)、アルマ望遠鏡(チリ)、IRAM30m望遠鏡(スペイン)、ジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡(米国ハワイ)、アルフォンソ・セラノ大型ミリ波望遠鏡(メキシコ)、サブミリ波干渉計(米国ハワイ)、サブミリ波望遠鏡(米国アリゾナ)、南極点望遠鏡(南極)の8局が参加しました。M87の緯度が高いため、南極のSPTはM87の観測に参加していませんが、キャリブレーション天体を観測しています。
観測対象の中心核
EHTのターゲットは、太陽の100万倍から100億倍程度の質量を持つ巨大ブラックホールです。ほぼすべての銀河の中心にあることが知られていますが、天体の見かけの大きさは地球からの距離が遠いほど小さくなるので、300万もの視力を持つEHTであっても、観測できるブラックホールは限られます。その一つがおとめ座の方向にあるメシエ87 (M87) の中心核です。地球から 5500万光年のところに位置しています。M87は活動銀河に分類され、中心核が非常に明るく輝き、ジェットと呼ばれる高速のプラズマ流を噴出しています。ジェットの噴出メカニズムは現代天文学の重要な未解決問題に位置づけられ、M87はその解明の鍵となる天体です。