VERAは国立天文台のレコードホルダー

VERAは国立天文台のレコードホルダー

小林

2000年に補正予算でVERAの建設予算60億円が認められ、本格的に建設がスタートしました。補正予算というのは12月ごろに組む予算で、本来は3月までに望遠鏡を完成させなければならないんだけど、実際は無理だから1年は延ばしてくれるんです。

マダム

まさか、その60億円を1年で使い切らないといけないんですか?

小林

そういうことです。1局が20億円。だから1年間で水沢と入来と小笠原の3局をつくって60億円。1年間に使ったお金としては、アルマと並んでVERAも最高記録です。

マダム

VERAにそんな最高記録があったとは、知りませんでした。

小林

みんな知らないよね(笑)。当時の私はVERA建設の責任者で、その年はいっぺんに3局も現場監督をしたから大変だった。当時のエピソードを話し出すと止まらなくなります。

建設の苦労話だけで本が書けそう
建設の苦労話だけで本が書けそう
小林

たとえばね、望遠鏡の基礎を打つといって、小笠原局では直径1.5m×高さ15mのコンクリートの杭を全部で18本埋めているんです。じつは小笠原には機械を持っていけないんですよ。現地にも重機なんてない。仕方がないから建設会社の人たち30人ぐらいで、鑿岩機で穴を掘りました。

マダム

ええーっ!?

小林

今度はそこに鉄筋を組んでコンクリートを打つんだけど、小笠原始まって以来の大量のコンクリートを使うわけ。それなのにミキサー車が島に2台か3台しかないの。コンクリートって途中で固まっちゃうと使い物にならないから30時間くらい連続でミキサー車を回して、コンクリートのプラントも動かして…現場の人たちを泣かせまくってできました。

小林

そうかと思うと、今度は水沢が…。寒いから冬にコンクリートを打つと凍っちゃうんだよね。だから囲いで覆ってストーブを焚いて...苦労したね。地元の建設会社に言わせると冬にコンクリートをあんなに打つなんて非常識なわけ。「なんでこんなことするんですか」って言われたけどね。

マダム

大人の事情で、1年で作らなきゃいけないからだよと。そういう過酷な条件で交渉がうまくいかない時はどう対応されたんですか?

小林

それはもう熱意しかない。こういうものが欲しい、これが天文学の研究のためになるんだ、という話をして、やる気になってもらう。現場というのはお金をいっぱい払うから動くということではないんだよね。反対にごねたからといって給料が上がるわけでもない。こちらの熱意とやる気を伝えるしかないですね。