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研究ハイライト

成果報告

急成長中の巨大ブラックホールの周辺構造が見えてきた


© 2023- 国立天文台
(クリックすると拡大表示されます)


 急激に成長している巨大ブラックホールの近傍から放たれる電波を、VERA(図3)を用いた観測で詳細に捉え、電波が周辺のガスから受ける影響を明らかにすることに成功しました。巨大ブラックホールの成長・進化の仕組みを理解する上で大きなヒントを与える成果です。

 銀河の中心には、質量が太陽の数百万倍から百億倍にも及ぶ巨大ブラックホールが存在しています。しかし、このような巨大ブラックホールがどうやって成長してきたのかはまだ解明されておらず、天文学の大きな謎の一つとなっています。

 「狭輝線セイファート1型銀河」(以下、NLS1)は、活動銀河核を持ち可視光線で特異なスペクトルが観測される銀河の種族です。このNLS1には、まだ比較的質量が小さく、周辺のガスを勢いよく取り込みつつある、いわば急成長中の巨大ブラックホールが存在すると考えられています。しかしNLS1は、クエーサーや電波銀河のようにより巨大なブラックホールが存在する銀河に比べて放射される電波が弱いため、中心部のガスの分布といった詳しい様子はこれまで観測されていませんでした。巨大ブラックホール近傍のガスが放つ電波は、偏波(可視光線でいう偏光)と呼ばれる特定の方向に偏った振動をする特徴があります。この偏波がブラックホール周辺にある磁場を伴うガスを通過するとき、偏波面が回転する「ファラデー回転」という現象が起こります(図1)。この回転量は、ガスの密度や磁場の強さによって変化するため、巨大ブラックホール周辺のガスや磁場の分布を探るための重要な手掛かりになります。ファラデー回転について、十分に成長した巨大ブラックホールが存在する銀河ではよく調べられていましたが、NLS1ではほとんど観測例がないため、ブラックホール急成長の謎を解くための残された鍵とされていました。

 国立天文台で研究を進める東京大学大学院理学系研究科 博士課程の高村美恵子(たかむら みえこ)さんを中心とする国際研究チームは、地球から比較的近い距離にある6つのNLS1に着目し、それぞれの巨大ブラックホール近傍の詳しい様子をVERAで詳しく観測しました。VERAが持つ高い解像度に加えて、新たに開発された「広帯域*・偏波受信システム」によって、これまで観測が困難だったNLS1の中心からの微弱な偏波を検出し、さらにNLS1からの偏波のファラデー回転を導き出すことに初めて成功しました(図2)。

 今回の観測の結果から、NLS1のファラデー回転の回転量は大きく、ブラックホール近傍から放たれた電波が、磁場を伴ったガスの影響を大きく受けていることが推測できます。また、NLS1中心のブラックホールの近傍には「成長の源」であるガスが豊富に存在することを、これまでで最も高い解像度による観測で裏付けています。NLS1の質量は、十分に成長した巨大ブラックホールに比べると10分の1ないし100分の1程度しかありませんが、いずれより大きなブラックホールへと成長し、クエーサーのような極めて明るく輝く天体になる可能性を示唆しています。

 「巨大ブラックホールにも私たち人間と同じように成長の歴史があります。」研究チームを率いた高村さんはこう語ります。「特に今回観測したブラックホールは、ご飯をモリモリ食べて元気に成長する育ち盛り真っただ中の私にそっくりであることがわかりました。」

 また高村さんの研究を指導し、広帯域・偏波受信システムの整備も推進してきた水沢VLBI観測所の秦和弘 助教は「大幅にパワーアップしたVERAの観測性能により、これまで謎に包まれていた「若い」ブラックホールの姿が明らかになりつつあります。今後さらに色々なブラックホールをVERAで観測することで、ブラックホールの成長や多様性の謎に迫りたい。」と述べています。

 本研究成果は、Takamura et al. “Probing the Heart of Active Narrow-line Seyfert 1 Galaxies with VERA Wideband Polarimetry” として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に2023年7月18日付けで掲載されました。



図表


日本語テキストあり

図1: 本研究の概念図。銀河の中心にある急成長中の巨大ブラックホールからは、ジェットや円盤風が噴出している。ブラックホール近傍から放たれた電波は、周辺にある磁場を伴ったガスを通過する際に、偏波面が回転して観測される。(クレジット:国立天文台)



図2: 今回観測した狭輝線セイファート1型銀河6天体。それぞれ左図が可視光線観測による銀河の画像 (1H 0323+342はパンスターズ望遠鏡、それ以外はスローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)望遠鏡による)、右図がVERA22 GHz帯によって今回得られた中心部の電波画像(1秒角は3600分の1度を示す)。 それぞれの電波画像の中で最も明るく輝く位置(白いカラーの部分)にブラックホールがあると考えられおり、その領域を詳しく分析することで微弱な偏波を検出することに成功した。(Credits: 電波画像は、Takamura et al., 可視光線画像は、SBS 0846+513, PMN J0948+0022, 1219+044, PKS 1502+036, TXS 2116-077はthe Sloan Digital Sky Survey, 1H 0323+342はPan-STARRS1 Survey**)



図3: 国立天文台が運用するVERA望遠鏡の配置。岩手県奥州市水沢、鹿児島県薩摩川内市入来、沖縄県石垣市、東京都小笠原村父島の4ヶ所に口径20mの電波望遠鏡を設置し、それらを連携しVLBI(Very Long Exploration Interferometer)技術を用いた観測をすることで口径2300kmにおよぶ巨大望遠鏡と同じ分解能を引き出します。(クレジット:国立天文台)(クリックすると拡大表示されます)

謝辞

本研究は、科研費(課題番号:15H03644, 18KK0090, 21H04488, 22H00157, 21H01137, 19H01943)、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラムJPMJSP2108の支援を受けて実施されました。


補足

* 今回アップグレードしたVERA広帯域受信システムでは、従来の観測の約4倍広い帯域幅(データの記録スピードに換算すると約16倍)で電波をまとめて受信することで雑音を低減し、信号検出感度を大幅に向上させました。具体的には、各望遠鏡で1秒間に2ギガバイトのデータを記録しており、これは128ギガバイトの容量を持つスマートフォンがわずか1分あまりで一杯になるほどの記録速度です。今回の研究では、VERA 4局を用いて38時間の観測を行い、合計で約1ペタバイトのデータを取得しています。


** The Pan-STARRS1 Surveys (PS1) and the PS1 public science archive have been made possible through contributions by the Institute for Astronomy, the University of Hawaii, the Pan-STARRS Project Office, the Max-Planck Society and its participating institutes, the Max Planck Institute for Astronomy, Heidelberg and the Max Planck Institute for Extraterrestrial Physics, Garching, The Johns Hopkins University, Durham University, the University of Edinburgh, the Queen's University Belfast, the Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics, the Las Cumbres Observatory Global Telescope Network Incorporated, the National Central University of Taiwan, the Space Telescope Science Institute, the National Aeronautics and Space Administration under Grant No. NNX08AR22G issued through the Planetary Science Division of the NASA Science Mission Directorate, the National Science Foundation Grant No. AST-1238877, the University of Maryland, Eotvos Lorand University (ELTE), the Los Alamos National Laboratory, and the Gordon and Betty Moore Foundation.



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