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M84銀河のブラックホール近傍における予想外のジェット幅の増加を発見

国立天文台水沢VLBI観測所、東京大学、名古屋市立大学などからなる国際研究チームは、近傍銀河M84の中心にある巨大ブラックホールから噴き出すジェットが、他の銀河に比べてはるかに近い領域で細い形状を失うことを初めて明らかにしました。米国に設置された高精度電波望遠鏡ネットワーク Very Long Baseline Array(VLBA)による観測によって得られたこの成果は、ブラックホールジェットの進化や銀河ごとの形状の違いを理解するための新たな手がかりとなります。

【図】超大質量ブラックホールとその周囲の降着円盤、および強力なジェットの想像図。挿入図は、VLBA(上)とVLA(下)による1.4 GHzでの電波観測であり、異なる空間スケールにおけるジェット構造を示している。(クレジット イラスト:NASA/JPL-Caltech、電波画像:Laing & Bridle 1987、Fariyanto et al. 2025)(クリックすると拡大表示されます)

ブラックホールジェットは、ほぼ光速で運動するプラズマの流れです。これらは驚くほど長い距離にわたって細く保たれる「コリメーション」で知られています。研究チームは、M84のジェットが噴出直後は放物型の絞られた形状を示すものの、予想よりもはるかに早い段階で円錐状へと広がっていくことを発見しました。

「M84のジェットは、他の銀河に比べてブラックホールに約100倍近い場所でコリメーションを失うことがわかりました」と、本研究をリードした 大学院生のエリカ・プラメスワリ・ファリヤント氏(東京大学/水沢VLBI観測所)は述べています。「M84はジェットの形状が詳細に測定された天体の中ではこれまでで最も活動性が弱い銀河中心核を持ちます。これは中心ブラックホールの活動性と、ジェットの形状には密接な関係があることを示しています。」

多くの活動銀河では、ジェットはブラックホールの重力が周囲のガスを支配する領域「ボンディ半径」に達するまで細く絞られた放物形状を維持します。一方M84では、その遷移がボンディ半径のはるか内側で起こっており、ブラックホール周囲に流入する物質が少ないためにジェットを細く閉じ込めるための十分な外圧が得られず、より早い段階で広がってしまうと考えられます。

研究チームは実際に、M84の測定結果を他の天体の結果と比較することで、ブラックホールに流れ込む物質が多いほどジェットのコリメーションが効果的になる兆候を見出しました。共同研究者で名古屋市立大学の秦和弘准教授は「この傾向が普遍的であるかどうかは、今後さらに多くの天体を観測・比較することで検証していきたい」と述べています。

本研究成果は、Fariyanto et al. “Jet Collimation Profile of the Low-luminosity Active Galactic Nucleus M84: Insight into the Jet Formation in the Low-accretion Regime” として米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に2025年9月11日掲載されました。

論文情報

Fariyanto, Elika P., Hada, Kazuhiro, Cui, Yuzhu, Honma, Mareki, Nakamura, Masanori, Asada, Keiichi, Wang, Xuezheng, Jiang, Wu, “Jet Collimation Profile of the Low-luminosity Active Galactic Nucleus M84: Insight into the Jet Formation in the Low-accretion Regime”(外部サイト), The Astrophysical Journal (2025) 911 13