建設進むVERA

 

 昨年度の補正予算で認められた天文広域精測望遠鏡(VERA)の3局(水沢、
入来、小笠原)の建設が3月末の完成を目指して急ピッチで進んでいる。3並行
建設、しかも遠隔地という前例のない工程であり、アンテナ建設を担当してい
る三菱電機と国立天文台、鹿児島大学のVERAグループは人員の不足をカバーす
べく全力を出しているところである。
 アンテナは7月から8月にかけて起工され、その後基礎工事を終了して、本体
の組み上げを行っているところである。受信機、ディジタルデータ処理機器、
運用ソフトウェア等の製作も着々と進み、工場試験の段階にあり、なかには水
素メーザー周波数標準器のように現地搬入を待つばかりのものもある。観測棟
はアンテナに並行して建設され、水沢及び入来はすでに完成し、什器類の搬入
も済んでいる。小笠原は2月上旬に竣工検査という段階である。
 各局の2月はじめの状況を順次見ていこう。ただし、建設が急ピッチなので、
この記事が目に触れる頃には状況はかなりかわっているであろう。
 水沢局は例年にない大雪と寒さの中で建設が進められている。新年の最初の
仕事は除雪であった。11月中旬には基礎工事が完了し、12月よりアンテナ組み
上げが始まったが、その頃にはすでにかなりの雪と冷え込みとなった。アジマ
ス天板下の無収縮モルタルは温度が低いと強度がでないので、打設は蒙古のパ
オのように基礎全体にシートをかぶせ、そのなかに暖房機をもちこんで行われ
た。このように手当をした甲斐があって、モルタルは十分な強度に達したこと
が確認された。その後はアジマスレールの敷設、台車、下部機器室、エース立
ち上げと進行している。アジマスレールの直径は14mで、12個に分割されてい
る。これを水平に高さを揃えて設置するのであるが、要求精度を最初から充た
すのはなかなか困難で、苦労している。アンテナ構造物の組み上げは1月から
となり、若干の工程の遅れを生じたが、作業員を増員して、各部の地組を並行
して行うことにより遅れを取り戻しつつある。2月初めにはセンターリングの
つり込みを行うまでになった。寒さと雪も大変であるが、時には地吹雪となる
北西の季節風は作業の大敵で、今後も気を抜けない工事が続くであろう。

    水沢局

               水沢局

 入来局は全般的に好天が続き、順調に進行し、3局のなかで最初に完成する
予定である。アッパーキャビンのつり込みが1月中旬に行われ、センターリン
グ組み立て、2ビーム受信機構組み立て、副鏡ステーと続き、いよいよ主鏡面
の組み立てに入ろうとしている。2月下旬にはアンテナらしく見えるようにな
るであろう。入来局は町から離れた牧場の縁にあり、インフラが未整備であっ
た。しかし、鹿児島大学、NTT、九州電力や近くのゴルフ場の協力で整備が進
んでいる。また、町も大変協力的で、道路との接続などで大変お世話になって
いる。

    入来局

     入来局:センターリングつり込み後の入来局アンテナ
         後方は観測棟。

 小笠原局は工事開始前に敷地内に自生している貴重な植物の移植を行った。
また、自生しているものとしては最も北にあるテリハコブガシが敷地内にあり、
傷つけないように慎重に工事を行っている。完成後には観測局の名物となるで
あろう。基礎工事は12月上旬で終了し、アンテナ本体の据付が新年とともに始
まった。この間、交代で小笠原に人を派遣し工事進捗状況を把握している。小
笠原までの船は1週間に1便しかなく、しかも25時間もかかるので、船に乗って
しまえばじたばたせずに、ノートパソコンを持っていってもそれまでの仕事の
ことはあきらめるしかない。しかし、宿の好意で仮事務所を無料で借りること
ができ、ISDNでインターネット接続ができるので、メールなどには不自由しな
い。したがって、娑婆と隔絶した世界というわけではない。問題は船の便数が
少ないため、一つ間違えるとすぐに1週間の工程遅れとなってしまう可能性が
大きいことである。しかしながら、水沢のように雪になやまされるという可能
性は絶無であり、順調に建設が進むと期待している。アンテナ部材のような大
型貨物は定期船の小笠原丸に積むことができず、貨物船をチャーターしている。

    小笠原局

     小笠原局:小笠原局におけるアジマス台車設置の様子。

 建設は3ヶ所で並行して進んでいるが、同時期の写真を見ると、水沢は雪景
色、入来は枯れ草風景、小笠原では緑の森を背景に半袖で作業をしていて、日
本の広さもすてたものではないという感じがする。観測棟は水沢は白、入来は
緑、小笠原は環境庁の指導もあって褐色とそれぞれ特徴がある。
 VERAアンテナの最大の特徴は2ビーム同時受信を行うことである。そのため
に、センターリングの中に6本のジャッキで支えられた受信機台(スチュアー
トプラットホーム)を2つ設置し、全体が天体の日周運動に合わせて視野を回
転する。スチュアートプラットホームは既に完成し、現在強度試験を行ってい
るところであり、近々入来アンテナに組み込まれる。視野回転台には50μmと
いう回転精度が要求されるが、現在その精度確認を行っているところである。

    2ビーム受信機構

     2ビーム受信機構:
     VERAの心臓部である2ビーム受信機構と視野回転台

 以上、アンテナを中心にVERA建設の現状を紹介した。次は3局完成、石垣局、
そしてファーストライトと報告を重ねたいと考えている。

「国立天文台ニュ−ス No.92より転載」<地球回転研究系助教授・水沢観測センター長 真鍋盛二>