ムールプレートとユーラシアンプレート間の
         オイラーベクトルの推定

 

平成8年度秋季地震学会、測地学会の予稿原稿


     GPSデータを用いたAM−EU間 Euler Vector の推定

  宮崎 真一(1)・日置 幸介(2)・鷺谷 威(1)・畑中 雄樹(1)・辻 宏道(3)

    (1)国土地理院、(2)国立天文台地球回転研究系、(3)建設省

Determination of the Euler Vector between the Amurian and the Eurasian
Plates with GPS data

S. MIYAZAKI(1),K. HEKI(2), T. SAGIYA(1), Y. HATANAKA(1), H.TSUJI(3)
(1)Geographical Survey Inst., (2)National Astron. Obs.
(3)Ministry of Construction

 従来プレートの運動パラメータ(Euler Vector)は(1)磁気異常縞模様、(2)トラ
ンスフォーム断層走向、(3)プレート間地震のすべり方向、のデータを用いて推定
されてきたが、その場合運動が既知の隣接プレートとの境界が特定できていなけ
ればならない。一方、あるプレートの安定内部においてGPS等の宇宙測地観測によ
って複数の速度ベクトルが地上基準座標系の中で決定されれば、境界や隣接プレ
ートの運動が確定していなくてもEuler Vectorを推定できる。
 西南日本からシベリアに跨るアムールプレート(Zonenshain & Savostin, 1981)
は、その東進が西南日本内帯における東西圧縮応力の原因となっているという説
もあり(e.g.石橋, 1995)、運動パラメータの決定が日本における地震の背景とな
るテクトニクスの理解に欠かせない。しかしアムールプレートの東には同じく運
動が解明されていないオホーツクプレートが接し、南限は中央構造線とする説
(Tamaki & Honza, 1985)と南海トラフとする考え(Wei & Seno, 1996)があり、従
来の手法による Euler Vectorの決定は困難であった。本研究では比較的境界がは
っきりしているバイカル湖からスタノボイ山地を通るアムールプレート北西部境
界で発生した 10個の地震のすべり方向データ (Wei & Seno, 1996)に、近年求め
られた中国地方および韓国のGPS点の速度(Heki, 1996)を用いてユーラシアプレー
ト内部から見た速度に変換)を加え、AM-EUの Euler Vectorを非線形最小自乗推定
した。
 中国地方のGPS点5点の速度ベクトルはユーラシアプレートに対してほぼ東向き
に1〜1.5 cm/yrで良く揃っており、フィリピン海プレートの沈み込みに伴う弾性
変形の影響を見せる中央構造線以南と対照的である。一方韓国Seoul近郊のSuwon
は同じくユーラシアプレートに対してほぼ東向きに2.3 cm/yr とやや大きな速度
で動いている。これらの速度の差はアムールプレート南端部である西南日本の東
北日本弧への衝突に際して東進速度にブレーキがかかり、順調に沈み込む日本海
東縁との差が生じたと解釈できる。


     Euler Vector

図1はGPSデータとして韓国の点のみを用いた場合のアムールプレートEuler Vector
推定値を示す。パラメータは良好な収束を示し、Wei & Seno (1996)が周囲のプレ
ートと併せて間接的に決定したAM-EUの Euler Vector(60.4N, 123.2E, 0.029 deg/Ma)
と極位置は良く一致する。しかし回転速度 は0.427deg/Ma (中国地方の5局を用い
た推定では0.242 deg/Ma)と一桁大きく求められ、日本海東縁におけるプレート収
束速度もオホーツクプレートを仮定しなくても年間2cm程度以上の収束速度を説明
することができる。

                参考文献

Heki, K., J. Geophys. Res., 101, 3187-31998, 1996.
石橋克彦、地質ニュース、490, 14-21, 1995.
Tamaki, K. & E. Honza, Tectonophys. 119, 381-406, 1985.
Wei, D. & T. Seno, Determination of the Amurian plate motion, submitted, 1996.
Zonenshain, L.P. & L.A. Savostin, Tectonophys., 76, 1-45, 1981.