質問電話、参観案内いろいろ

 

 国立天文台では、一般質問電話に対する対応は、天文情報公開センターの広
報普及室が中心になって対応しています。また、施設の公開展示などについて
は広報委員会を組織して、その内容の検討を行っています。水沢地区に掛って
くる質問電話についても対応者を決めて対応していますが、質問内容によって
は私の所に電話が回ってきたり、あるいは、水沢で対応する者が不在のときは、
広報普及室の電話番号を教えて三鷹側で対応をお願いしています。
 これまで対応してきた質問電話で、印象に残っていることをいくつか紹介し
ましょう。強く印象に残る質問とは、こちらが対応に困ったとか、どちらかと
言うと天文台が対応するのに相応しくない質問ということになりますが、まず
はまともな話を選びます。国立天文台の水沢地区の前身が緯度観測所というこ
とで、緯度経度に関した質問がちょくちょくあります。本州最東端のトドヶ崎
の経度はいくらかだとか、その手の想定問答表をかなり以前に用意したことが
あります。自分が住んでいる町の緯度経度を知りたいという問い合わせもよく
あります。こちらで調べて返事はしますが、このような質問に対しては、「本
屋さんで地形図か地図帳を購入してご自分で調べて下さい」と答えるのが教育
的でしょうか。種をあかせば、こちらも高校用の地図帳を開いていたり、ちょ
っと正確に答える必要のあるときは20万分の1の地勢図を調べているだけです
から。
 新月や満月の日を知りたいといった質問には、然るべき資料を見ればすぐに
答えられるけれど、詳しい数値を知りたいと言ってくる人には、理科年表をお
買いあげ下さいと言いたくなることもあります。太陽の南中時刻の質問も、方
位を決めるために必要になるので建築関係者からと思われる質問が多くありま
す。これも経度さえ分かれば、理科年表から簡単な足算か引算だけで計算でき
ます。ただし、これは答えをうっかり間違えると建物がよそを向くことになる
ので慎重に答える必要があります。
 最近は質問が少なくなりましたが、岩手県三陸町にある宇宙科学研究所の大
気球観測所から気球が打ち上げられると、夕空に明るき輝くあれは何かという
質問がよくありました。惑星の見える位置を確認しないで、夕方の西の空に見
えるなら金星だろうとタカをくくって答えると、後でシマッタということにな
ります。惑星の位置を平素気にしておくというのが、質問回答者のイロハでし
ょうが、明け方に見える明るい星は何ですかという問いに、はて、木星か金星
かと迷うこともあります。惑星の位置でついでに言うと、木星と土星が見える
のは、しばらくは冬の季節になります。子供会相手などの観望会でこれらの惑
星を見せようと思うと大変です。土星の公転周期は30年だから、夏の夕刻に見
せようと思うと、あと十数年待たなくてはなりません。小学生をそこまで待た
せると、みな大人になってしまいます。天文現象のスケールが大きいと感じる
のはこんなときです。
 海の干満時刻の問い合わせも来ることがあります。天文台とは関係無いとい
って電話を切ってしまってもかまわないのですが、潮汐は私の研究分野に関係
するので、なまじ予報ができてしまうからたちが悪い。質問してきた人に電話
のたらい回しをするのは悪いと思ってしまうので断りにくい。ただし、船が座
礁しただとか、台風の接近で高潮を警戒しているといった類いの質問を受ける
ことはありません。海のプロはしかるべきところ、海上保安庁の出先機関に問
い合わせるはずだから、間違っても国立天文台などに電話を掛けてきたりはし
ません。季節が5月ならば、まずは100%潮干狩りのための問い合わせです。こ
ちらは、大潮の日はいつだとか、三陸海岸では潮が引くのは午前中、午後はダ
メだから朝早く出かけられる方がよろしい、といった受け答えをすることにな
ります。
 10年ほど前の夏の盛り、「今日は流星がたくさん見えるが何か有るのか」と
いう電話を受けたことがありました。それは、ちょうどペルセウス流星群が例
年以上に活発な出現を見せていたときで、私も官舎から庁舎にたどり着くまで
のごく短い時間にたくさんの流星を見た記憶があります。電話を掛けてきた人
は、自力で流星群を発見したのであり、自然観測の鋭さをほめ、流星群という
ものは何かと説明しまた。こういう対応をするのは嬉しいものです。
 最後に、参観案内について少し触れておきます。この原稿を書いているとき
は、世間では夏休みの期間中です。この時期になると、帰省のついでに見学に
来る人も多くなるけれど、高校生や熱心な天文アマチュアの見学も多くなりま
す。水沢地区の施設の特別公開日に来るお客さんは、小学生とその親といった
年齢層が中心で、高校生といった年齢層は少ないものです。たまに熱心なアマ
チュアが来られても、多数のお客さんを相手にしている時なので個別の対応し
かねます。夏休み中、いつもゆっくり参観者の対応をしている訳ではないけれ
ど、はっきりと目的を持って参観に来る中・高校生あたりと対応するのは、案
内のやりがいがあります。質問内容にすべて専門的に答えられるわけでは無い
けれど、どうやって研究者になったのかだとか、大学とはどういう所かといっ
た質問には、ちゃんと答えるようにしています。彼ら彼女らと10年後、どこか
の研究会で会うことを期待しながら。            <田村良明>
                 「国立天文台ニュ−ス No.99より転載」