南極・昭和基地の超伝導重力計で
     観測された地球自由振動の常時励起

 

 大きな釣り鐘を叩くとゴーンと低い音で鳴り、小さな鈴はチリリンと高く澄んだ音
を出す。これら鐘や鈴の音の高さや音色の違いは、その大きさや形状、また材料の違
いにより、振動する際の特徴的な周波数(自由振動の固有振動数)や周波数毎の振幅
の大きさの分布(振幅スペクトル)に差があるために生ずる。巨大地震により地球が
叩かれると地球も固有な振動を発生する。この振動は地球自由振動と呼ばれ、その振
動の周期は約1時間から数分の間に分布している。地球自由振動のスペクトルを詳し
く分析することで、地球の内部構造を知る手がかりが得られる。従来、地球自由振動
は大きな地震により励起されると考えられてきたが、これが常時励起されているらし
い証拠が南極の超伝導重力計データの解析で世界で初めて発見された。
 超伝導重力計は超伝導磁気浮上力をスプリングに使った重力計で、地球表面の重力
(9.8ms-2)の1x10-12以下の微弱な変化を検出できる感度を持っている。1993年3月
に南極・昭和基地でのこの重力計による観測が国立天文台が中心となって開始された
(佐藤、1994)。その後、国内各機関の協力のもと観測は現在も続けられている。今
回、名古屋大学のグループが中心となって観測開始以来3年間のデータを使い、地球
自由振動帯域のスペクトルの時間変化が調べられた(Nawa et al.,1998)。その結果
をまとめたのが添付の図1である。横軸は周波数、縦軸は日単位で表わした経過時間
で、各日に観測されたスペクトルの強度が色コードで表示されている(青から赤に向
かって加速度が大きくなる)。なお、上の横軸に示した目盛りは地球自由振動の半径
方向の伸び縮み基本振動のモードに対応しており、代表的な次数(例えば0S2の2)を
数字で示している。また、モーメントマグニチュードが5.9以上の地震の発生時が右
に赤い線で示してある(長い線ほどマグニチュードが大きいことを表わしている)。
これに対応して横に赤い線が走っている。これは地震により地球自由振動が励起され
たことを示している。注目すべきは、振幅が約2x10-11ms-2と小さなものであるが、
自由振動のモードに対応した位置に縦に筋が見えることである。これは地震が無い時
にも自由振動が励起されていることを示唆している。

       Spectrum Analysis

   図1:極・昭和基地の超伝導重力計で観測された地球自由振動帯域
      での重力加速度のスペクトルの時間変化

 今回の解析結果は、自由振動は大きな地震で励起されると言う従来の常識を覆すも
ので、その励起源が問題になる。図2は粘弾性的な性質を持った現実的な地球モデル
を使い、地震による自由振動の励起状態をシュミレーションしたデータを図1と同様
な手段を使って解析した結果である。右の縦軸に注記されているB、Kはそれぞれボ
リビアと千島で起こったM8クラスの巨大地震の発生時を示しており、広い周波数帯域
に渡って自由振動が大きく励起されている様子が見える。しかし図2には図1で見たよ
うな縦の筋は見られず、地震による常時励起の可能性が低いことがわかる。現在のと
ころ、大気の熱運動で地面が叩かれる効果がその有力な励起源として挙げられている
(小林、1997)が、まだ確定していない。最近話題になっているゆっくり地震が励起
源の一つになっている可能性も考えられる。その後、同様な現象は高感度地震計国際
観測網(例えばIDAやIRIS)のデータを使った解析でも見つかっており、今後は各観
測点でのスペクトラムの特徴や時・空間的なコヒーレンシーが励起の問題とも関連し
研究すべき課題と言える。一方、大気の存在が必要条件になるが、この現象は地球に
比べ観測手段が極端に少ない惑星の内部構造を調べるための有力な手段を提供するも
のとして注目されている。

       Spectrum Analysis with Simulated Data

   図2:シュミレーションで作った地震データを使って解析したスペク
      トルの時間変化

 超伝導重力計の特徴の一つに、長期安定性がある。この性質を使って、従来の地震
計では観測できなかった地球自由振動より長い周期帯での自由振動(流体核の浮力慣
性振動など)の検出や例えば海を励起源とする未知の自由振動の発見に期待がかけら
れている。それには、国際的な共同観測が不可欠で、昨年7月、超伝導重力計国際観
測網計画GGP(Global Geodynamics Project)が開始された。その一環として、日本
のグループは日本−インドネシア−オーストラリア−南極・昭和基地で構成される観
測網(GGP-Japan Network)の構築を目指していたが、昨年1月、国立天文台はオー
ストラリア国立大学・ストロームロ天文台での観測を、また、昨年12月には京都大学
がインドネシアでの観測を開始した。いよいよネットワークとしての観測が動き出し
たことになる。日本の観測網は、従来北半球に偏在していた超伝導重力計の観測点配
置を一気に南半球に広げるもので、グローバルな広がりを持った微弱な信号の検出感
度を上げるものとして、この観測網でのデータの蓄積が期待されている。

参考文献:
K.Nawa, N.Suda, Y.Fukao, T.Sato, Y.Aoyama, and K.Shibuya(1998), Earth, Planet
 and Space,Vol. 50, pp3-8.
M.Kobayashi, K.Nawa, N.Suda, and Y.Fukao (1997) , Proceedings of the 6th Work
 Shop on Superconducting Gravimeter, ed. K.Kaminuma, pp33-37.
佐藤忠弘 (1994)、国立天文台・水沢ニュース、第19号.
                              <佐藤忠弘>