真空筒回転式絶対重力計の開発と
           重力の経年変化の検出

 

 任意の時刻、場所の重力加速度を決められる絶対重力計は、全地球規模の長周
期や経年的の重力変化を捉えられる唯一の装置である。重力変化、とくに長周期
や経年的な重力変化は、例えば、地球回転変動、J2の変化、氷床の融解による海
面変動、コア・マントル境界の変動等、地球全体に関係するものが多く、それら
の積分量である重力変化を正確に観測することによって、地球全体の平均的な運
動、物性、構造に対する強い拘束条件を得ることができる。そのためには、長期
間安定した重力絶対値を測定する必要があり、機械の安定性と測定の自動化が不
可欠である。

         Rotation Type Absolute Gravity Meter

          図1:真空筒回転式絶対重力計

 真空筒回転式絶対重力計は、自動化と長期安定性を目標に開発された自由落下
方式の重力計であり(図1参照)、真空中を自由落下するコーナーキューブプリ
ズムの加速度を、原子時計の刻む時間とレーザ干渉計が測定する落下距離とから
求めている。特徴として、1)複雑な機構、とくに、トラブルを生じやすい、落下
した光学素子を再び持ち上げる機構を排除し、変わりに、回転による遠心力を利
用した落下機構を開発した、2)系統誤差を排除するために、落下中の回転の影響
を最小限にするための、落体の重心と光学的中心を一致させる方式を開発した、
3)脈動等の長周期の振動を位相遅れなく正確に記録して補正する方式を採用した、
4)落下中に生じる干渉縞信号の位相から落下距離を正確に求める方式を採用した、
等があげられる。上記の開発の結果、個々の測定値のばらつきが約20μGals
(2×10-7ms-2)以下で15分毎に1週間以上連続して測定値が得られる独自の
方式の装置を完成させた。
 これによって、400測定以上の平均値を用いて、1μGalの重力変化を議論でき
るようになった。

      Variation of Gravity

        図2:江刺重力観測室で得られた重力変化

 真空筒回転式絶対重力計を用いて、国立天文台水沢観測センターの江刺重力観
測室において、1年以上測定を継続し、以下の結果を得た。1)プレート運動に関
係すると見られる、3〜10μGals/年の割合の重力の経年的な増加傾向を検出し
た(図2参照)。ただし、三陸はるか沖地震(1994年12月29日、マグニチュード
7.5)後2ヶ月間は重力減少が見られた。この変化を、水準測量や験潮記録から
推定される地殻の上下変化と結び付けると、単純に地球中心からの距離が近くな
ったことによる重力変化よりも大きい変化である。

                参考文献
H.Hanada, T.Tsubokawa, & S.Tsuruta, A possible source for a large systematic
error in absolute gravimetry, Metrologia, 33, 155-160.
H.Hanada, Development of an absolute gravimeter with a rotating vacuum pipe
and study of gravity variation, Publ. Nat. Astr. Obs. Japan, 4-3, 75-134.
                              <花田英夫>