日本測地学会第88回講演会を終えて

 

 日本天文学会の1996年秋季年会が水沢で開かれていたとき、国立天文台水沢地区の
何人かは東京で催された国際シンポジウム「重力・ジオイド・海洋測地」に出席中で
した。そこで、1年後の日本測地学会講演会の水沢開催を打診されたのがことの発端
です。このニュースをお読みの方にはなじみが薄いでしょうが、国立天文台水沢地区
は前身の緯度観測所以来、地球を相手の観測・研究も続けています。その関係で測地
学会は水沢地区にとって天文学会と同様に身近な存在です。
 秋の講演会は、かつては京都、名古屋、水沢の順と決まっていたため、3年ごとに
汗を流す恒例行事でした。が、研究者の広がりとともに各地を回るようになり、今回
水沢がお世話するのは1989年に江刺市で開催して以来、8年ぶりです。ところが8年前
の記憶は薄れ、世話役はみな水沢の天文学会年会のとき東京にいたので前年の開催経
験がなく、心もとないスタートでした。
 会期は1997年10月29-31日、会場は前年の天文学会と同じ水沢市文化会館(Zホール)
の中ホールと決めました。ほぼ従来どおりを想定して準備を進めたのですが、125題
の講演申し込みは予想外でした。ここ数年は80題ほど、過去最高が7年前の京都で100
題ですから文句なしの新記録です。これは測地学の研究が盛んになったためか、皆さ
んが秋の水沢の魅力に引かれたせいか、その両方と思いたいところです。しかし喜ん
でばかりもいられません。すべてが口頭発表の講演を限られた時間に割り当てるため、
1題あたり8分30秒に制限されました。これまで10分を切ったことがない測地学会の
牧歌時代は終わったようです。それでも講演会は滞りなく進行しました。
 測地学会でどのような分野を扱うかを紹介するため、今回の講演会のセッションを
書き出してみましょう。測地一般、計測技術、海洋測地、南極測地、地球回転、惑星
測地、VLBI、重力、地球潮汐、GPS、地殻変動です。このうち惑星測地は今回から新
たに加えられたセッションで、天文台水沢からの貢献が目立ちました。これは、将来
計画の柱の1つであるSELENE計画が順調に推移していることの現われなのでしょう。
 この講演会に先立つ10月26日には、広く市民に測地学への関心を持っていただくた
めの公開講座も実施しました。前年の天文学会公開講演会と同様、科学研究費「研究
成果公開促進費」を申請したのですが、こちらは不採択でした。地方の小都市で2年
続けてでは、と文部省が二の足を踏んだためでしょうか。それでも、学会独自の企画
として、講師を引き受けてくださった会員にボランティアをお願いしての開催となり
ました。
 当日は日曜日でしたが、朝からあいにく氷雨のうえ、市内の公園では産業祭りが大
鉄鍋で6,000人分の郷土料理「芋の子汁」を振る舞うとあって、来場者は150人ほどで
した。文部省お墨付きの天文学会公開講演会より多くの聴衆を、と密かに期待しまし
たが、残念ながら負けました。測地学が関わるさまざまなスケールの変動から活断層、
日本列島の変形、地球回転をテーマに、それぞれの専門家が岩手という地域性を前面
に出しながら解説するという内容は、天文の公開講演会に比べて遜色ないと思うので
すが。天文に負けたというより、胃袋に負けた感もあります。
 残念だったのは、公開講座の後援依頼などで学会行事を一市民の立場で地元自治体
にアピールしたとき、ほとんど関心を示してもらえなかったことです。通過型でなく
滞在型の観光をと言うのなら、百数十人の来訪者が数泊づつ滞在することはビジネス
チャンスのはずです。宿泊を伴う一定規模の集会招致に補助金支給を制度化する自治
体も増える中で、補助金以前の窓口の対応には失望でした。一方、懇親会は最後まで
ごちそうにありつけるなど好評で、面目を施しました。懇親会の気配りは民間、失望
した窓口が公務員、では公務員のはしくれとして切ない思いです。私が一市民にこだ
わりすぎたと忠告する人がいます。末端の窓口でなくしかるべき筋に話をもって行く
べきだったと。反省すべきは私でしょうか。
 ともあれ測地学会の行事は無事終了しました。この会期中にもたれた評議会では西
暦2000年の国際地球潮汐シンポジウムの水沢開催が了承されました。その担当者には、
地元自治体とのよりよい関係を築いてくれることを願っています。  <中井新二>