見学中に、もし幸運にも10mアンテナが動く場面に遭遇したら、動くスピードに注目してみてください。高性能の駆動系を使っているので急にグワーッと速く動いてピタッ!と止まります。古くなったとはいえ、まだまだ十分使える。世界には完成から50年以上経っても現役で活躍している電波望遠鏡があります。ジョドレルバンク天文台の76m鏡とか、パークス天文台の64m鏡とか。定期的に保守をすれば、この10mアンテナも50年以上使えると思うんですよね。
亀谷さんの現在のお仕事について教えてください。
私はVERAプロジェクトの水沢局担当をしています。日々のアンテナの状況を把握してスムーズに観測が行えるようにしています。急にトラブルが発生したりして、いつ何があるかわからない仕事ですが、協力してくれる人がいっぱいいるので助かってますね。先ほど述べた周波数保護の仕事や、広報委員として取材対応などのサポート、地元の高校の観測実習を指導したり、VERA20mアンテナの隣にある10mアンテナの運用も担当しています。
10mアンテナ!ずっと気になっていたんです。今でも動いているんですね。
亀谷さんが天文学者を志したきっかけはありましたか?
あります。小学校3年生の6月、父が渋谷にあった五島プラネタリウムへ連れて行ってくれたんです。当時、私は世田谷に住んでいて本物の星空はあまり見えませんでしたが、プラネタリウムで見た満天の夜空はすごかった。感動したなあ。それがきっかけですね。4年生になってからは毎月一人で見に行くようになりました。片道30分くらいバスに乗って、プラネタリウムを見て、またバスで帰ってくる。中学生になってからは星の会にも入りました。
天文に熱中していたんですね。
私の仕事のひとつに「周波数保護」があります。人間の活動によって出される電波は天体から届く微弱な電波に比べてけた違いに強い。電波天文学にとって大きな影響があるんです。
街あかりで夜空が明るくなると星が見えにくくなりますが、電波もそれと同じなんでしょうか。
同じですね。電波天文学は電波を出さずに受信するだけなので、どの周波数を観測してもいいんですが、周りで強い電波が出ていると観測にならないんですね。そこで、電波天文学でとくに重要な周波数帯域は守りましょう、そこでは電波を出さないようにしましょう、という取り決めがあるんです。私たちはこれを周波数保護と言っています。
VERAの計画段階から深く関わってきた亀谷さん、なんと建設予定地を探し歩く担当のお一人だったそうですね!
そうです。望遠鏡の建設が提案されているエリアの現地調査をすることをサイトサーベイと言います。現地へ実際に赴いて、諸々の条件を調査しながら建設地を探して回るわけです。
1956年帯広市出身、東京育ち。埼玉大学卒業後、東北大学大学院理学研究科で修士、大質量星形成領域の電波天文学研究で理学博士(1986年)。野辺山宇宙電波観測所研究員等を経て、1990年に国立天文台水沢に採用され、現在、水沢VLBI観測所助教。趣味は、合唱、フルート演奏(上手ではない)など。零式艦上戦闘機(ゼロ戦)が好き。1993年設立の日本宇宙少年団水沢Z分団の分団長を務めています。