南極越冬隊員の経験をお持ちの寺家さんですが、まずはVERAプロジェクトにおける普段の仕事について教えていただけますか?
VERA4局の観測の監督と、アンテナ間の距離を2ミリの精度で出す測地VLBIをやっています。VERA4局で定常的に行っている測地観測は1G(ギガ)bpsという世界トップクラスの記録速度が特徴です。
世界トップ!どんなところがすごいんですか?
記録速度が速いとデータを大量にとることができるんです。たとえば、お皿の上に薄~く砂糖をまぶしていくとしましょう。お皿が大きくなれば、そのお皿にかかる砂糖の量って多いじゃないですか。
はい。わかりやすい!
観測に置き換えると、お皿の面積が広い=天体の電波を広い帯域でとれるということになって、そこからかき集めた砂糖の量は多くなりますから、皿の上に載っていたものが砂糖であると認識しやすくなる。データをたくさん集めた分、計測の感度を高くすることができるわけです。あと、同じ量のデータを集めるために必要な時間を短縮できる。例えば、いままで1つのスキャンに5分かかっていた積分時間が1分で済むとなれば、観測の密度を上げることができます。
同じ時間内の観測回数を増やせるんですね。
そう。24時間のあいだに200回しか観測できない場合と800回観測できる場合を解析して比べたら、それはもう800回のほうが2倍から3倍くらい観測精度が良いわけです。
もうひとつの仕事は国際VLBI観測です。IVS(International VLBI Service)という測地学と位置天文学の研究を促進するためのVLBIの国際的な協力組織に参加しています。世界各地の観測局でクェーサーを同時に観測して、その様な観測を繰り返します。それぞれの観測で得た遅延時間から、地球の自転軸がどっちの方向にどのくらいの角度で傾いているかを測定できるわけです。VERAのネットワーク自体が地球上のどこに位置しているか、ネットワークの方向が地球の座標系に対してどっちを向いているかを調べるために参加しています。IVSでは、歳差、章動、UT1、極運動の4つのパラメータのモニター観測と天文・地球規準座標系の構築を行うための観測が行われています。
VERAの観測が世界に貢献しているのですね。これは世界中の局でやっているんですか。
アメリカ、ヨーロッパ諸国、ロシア、日本、中国、それから南アフリカ、ブラジル、チリ、オーストラリア、ニュージーランド、あとは南極に2つVLBI局があります。そのうちのひとつが昭和基地です。
記事公開日:2015年10月9日
地学・地球物理学を専門として研究を行っており、国立天文台のVERAプロジェクトに係ってからは、VLBIを用いた時空計測に関する研究と幾何測地学を専門として研究を続けています。大学生の頃からフィールドワーカーなので、観測の現場にいる事をモットーにしております。
通信速度の単位。bpsはbitpersecondの略。1秒あたりに送受信できるビット数を表す。
1G(ギガ)=
1,000M(メガ)=
1,000,000k(キロ)=
1,000,000,000
VLBIによるグローバルな地球観察システムによって測地学と位置天文学の研究開発活動を促進する国際的な協力組織。
IVSは観測をしたデータをIERSに提供し、IERSはそのデータによる座標系の管理を行っている。座標系の基準を新しくするときは国際天文学連合(IAU)や国際地理学連合(IGU)が世界全体にアナウンスする仕組みになっている。