VERAトップページへ  
ここから本文

成果報告その他の報告

研究ハイライト

成果報告

不死鳥は甦るか?
— 冷えた銀河団の中心で生まれた若いジェットを発見 —

 「ほうおう座銀河団」は約59億光年というやや遠い距離にあり、年老いて冷えてしまった銀河団だと考えられています。水沢VLBI観測所の赤堀 卓也 特任研究員らの国際研究チームは、この銀河団の中心に位置する巨大な銀河に、誕生から数百万年という若いジェットを発見しました。銀河団の冷却と加熱についてのこれまでの理解を覆し、さらなる謎をもたらす新たな知見です。


背景

 銀河の分布は一様ではなく、数十個から数千個が集まり銀河団を形成しています。その銀河を引きつけているものとして、目に見えないダークマターが候補と考えられています。ダークマターの強大な重力により、銀河団には一千万度を超える高温のガスが大量に閉じ込められていて、強いX線を放射することが知られています。

 X線の放射によりガスの熱が失われると、圧力が低下し均衡を保てず、ガスはダークマターの重力に引き寄せられます。銀河団の中心部にガスが集まることで、さらにX線の放射が強まり、より一層ガスが冷えます。冷えたガスは銀河団の中心にある銀河に降り積もり、そこでたくさんの星が作られるシナリオが予想されています。しかし銀河系近傍にある銀河団では、このようなことは見つかっていません。各銀河団中心の銀河に存在する超大質量ブラックホールからジェットが噴き出しエネルギーが供給され、ガスは冷えないと考えられています。

天体

 約59億光年のやや遠い距離にあるほうおう座銀河団は、近傍に見られる銀河団とは大きく様子が異なります。この銀河団の中心には、通常の1000倍の早さで爆発的に星が作られる巨大な銀河が存在します。またその銀河の中心には超大質量ブラックホールがあり、毎年およそ太陽60個分の質量を取り込み急成長しています。

 同研究チームはALMA望遠鏡を使い、この銀河団の中心部で例外的に大量のガスが冷えている結果を既に得ており、これは巨大銀河に見られる爆発的な星形成の種となる可能性を示しています。では、ほうおう座銀河団の中心の銀河にはジェットが存在しないのでしょうか?これまでの観測では、解像度や感度が足りず、ジェットは見つかっていなかったのです。

結果

 国立天文台水沢VLBI観測所の赤堀 卓也 特任研究員は、同観測所が行う比較的高い周波数によるジェットの観測に着想を得て、従来用いられていたジェット全体像の観測のための周波数よりも、さらに高い周波数の電波を長時間にわたり観測し、ほうおう座銀河団の中心部の高感度・高解像度のデータを取得しました。観測には、より長い観測時間が得られる南半球にある電波干渉計、オーストラリアコンパクトアレイ(ATCA)を用いました。

 その結果、中心の銀河から噴き出すジェットを捉えることに成功しました。またジェットは、噴き出した時代が異なると思われる2組があり、そのうち、最近に噴き出たジェットの年齢は銀河団に比べてたいへん若く、誕生から数百万年と推定されました。銀河団の中心部で大量のガスが冷えているにもかかわらず、ジェットの存在を確かめたこの観測は、ジェットが高温ガスの冷却を止めていないことを示しており、これまでの理解に疑問を投げかけることになりました。銀河団の冷却と加熱を理解するためには、さらなる観測と研究が求められます。

今後

 ほうおう座銀河団の巨大銀河にジェットが確認されたことで、これまで知られていた近傍での銀河団と異なり、銀河団中の巨大銀河にジェットが存在しながらも、銀河団中のガスが冷えるという、新たな知見を得ました。この解釈として、今回観測されたジェットがまだ噴き出したばかりで、ガスの過熱が十分に進んでいないことが挙げられます。

 今回の研究を主導した赤堀 特任研究員は、「ほうおうは本来フェニックス、つまり不死鳥のことです。不死鳥の伝説の通り、この銀河団は死につつあるが今まさに甦ろうとしているのかもしれない。建設の始まる超大型電波望遠鏡SKA(エスケーエー)を用い、さらに高感度かつ高解像度でこの天体を観測して、近くの銀河団との違いがなぜ生じているのかを解明していきたいです。」と、今後の抱負を語っています。




この研究成果は、T. Akahori et al. “Discovery of radio jets in the Phoenix galaxy cluster center”として、『日本天文学会欧文報告(Publications of the Astronomical Society of Japan)』の2020年8月号に掲載されました。




図表


© 2020- Akahori et al.

図1:ほうおう座銀河団の中心で観測された電波ジェット。(クリックすると拡大表示されます)
 銀河団中の巨大銀河(C1)から両方向に電波放射が観測された。図は、左右とも同じ領域で観測された電波の強度を色として示している。図の左右方向が東西、上下が北南になる。左図は、C1の強度分布がわかるように示し、右図は右上、左下の両方向に伸びたジェットからの電波強度がわかるようにコントラストを変えて示している。
 ブラックホールなどから噴き出されるジェットは、一般的に天体を挟んだ両方向に存在することが知られている。また噴き出す時期が昔になるほど、中心の天体から遠く離れ、最近になるほど近くに観測される。C5とC6のペア(点線四角)は昔に噴き出されたジェット、C4とC3(点線楕円)は最近に噴き出されたジェットと考えられる。





図2:ほうおう座銀河団の中心にある銀河から噴き出すジェットの想像図。(クリックすると拡大表示されます)



論文リンク


他機関でのリリース

2020.8.31更新


関係する研究成果





ここからフッター