第2回 月の潮汐変形と内部構造推定

図1.地球から見た月

図1.地球から見た月

地球の月はケイ酸塩鉱物などの岩石でできた天体です。主に地球による潮汐力のために月は少し変形します。月はいつも同じ面(月の表側)を地球の方向に向けていますので、大雑把には同じ大きさの潮汐力が同じ場所に働いています。つまり月は地球の方向に伸びています。「理科年表」には「月の形状楕円体の半径:地球方向1738.4 km、極軸方向1736.7 km、両者に垂直な方向1737.5 km」と書かれており、地球方向が極の方向よりも2 kmほど、また月が進む方向よりも1 kmほど長くなっていることが分かります。

さらにもう少し細かい空間スケールの現象も考えてみましょう。地球のまわりを回る月の軌道(通り道)は完全な円ではなく楕円です。この効果は二つあります。一つ目はひと月で月と地球の距離が変わること、二つ目は地球から見た月の面がわずかに変化し、首ふり運動をすることです。逆に、月から地球を見ると、地球の位置は約一か月かけて平均の地球方向のまわりを見た目の大きさを変えながら振幅約10度でぐるぐるとまわるように見えます。したがって、地球による潮汐力が最大になる月面上の位置は一か月の間で常に変化します。実際、地上から月に設置されたレーザ逆反射板(図2)までの距離をレーザ光を使って測ることができるのですが、測定された距離の詳細解析により、月面は10 cm くらい上下することが分かっています。

図2. アポロ14号の宇宙飛行士が月面に設置した月レーザ測距用の逆反射板 (NASA 画像番号 AS14-67-09386 クレジット:NASA/JSC)

図2. アポロ14号の宇宙飛行士が月面に設置した月レーザ測距用の逆反射板 (NASA 画像番号 AS14-67-09386 クレジット:NASA/JSC)

月がどのくらい変形するかは、月の内部の構造を知るための有力な情報です。私達は月や惑星の中身を見たり割ったりして直接知ることはできませんので、大雑把には平均密度から、また詳しくは潮汐変形や回転、表面に設置した地震計による地震波観測から、内部構造を推定します。

潮汐変形に関して言えば、天体を周回する探査機や月へのレーザ測距による観測によって、潮汐力による変形具合をひとくくりにして表す数値(ラブ数、志田数)が推定されます。内部が柔らかいほど変形が大きく、これらの値も大きくなります。表面からの深さが違えば柔らかさも異なるはずですが、これらの観測値からは深さ方向の柔らかさの情報を取り出すことはできません。そこで、月の深さ方向のどの部分がどのくらい硬いか(柔らかいか)というモデルを作り、それから計算される値と観測値を比較することにより、月の内部構造が推定されています(図3)。

図3. 現時点で使えるデータから考えられる月の内部構造

図3. 現時点で使えるデータから考えられる月の内部構造(解説記事より)