【運用中】「はやぶさ2」レーザ高度計LIDAR ~小惑星リュウグウの形状・重力モデル作成~

概要

RISE月惑星探査検討室では、月探査周回衛星「かぐや」に搭載したレーザ高度計(LALT)の開発の経験を生かし、JAXAが主体となって開発している日本の小惑星探査機「はやぶさ2」のレーザ高度計(LIDAR)の開発に、千葉工業大学、会津大学等と共に参加しています。「はやぶさ2」は2014年12月3日打ち上げられました。LIDAR(Light Detection and Ranging:ライダー)とはレーザ光を用いた測距技術のことです。探査機からレーザ光を天体表面に照射し、戻ってくる光を検知して距離を測定します。本来、LIDARは光学航法カメラ(Optical Navigation Camera)と協力して探査機の航法誘導を行うための機器なのですが、小さな小惑星の形状を現地で詳細に測定し、着陸地点を選ぶための基礎情報を提供することも大きな目標です。さらに、LIDARをうまく使って科学的なデータを取ることもできます。我々は科学観測のための機器の使い方を検討し、科学観測のための運用手順の検討や校正試験の計画作成、等を行っています。

期待される科学成果

1. 小惑星の密度と空隙率の推定

探査機の動力(スラスター等)が止まっている状態では、小惑星の重力に探査機が捕まって小惑星に自由落下していきます。落下する速度は初速度と小惑星の重力の大きさで決まりますので、自由落下の状態でLIDARによって小惑星までの距離を測定すれば、小惑星の重力場が測定できて、その結果、小惑星の質量がわかります。他方、LIDARやカメラから得られる形状モデルからは小惑星の体積が分かるので、小惑星の密度が分かり、物質を仮定すれば平均の空隙率(porosity)が推定できます。密度や空隙率からは内部構造の推定ができ、さらに小惑星の成り立ちとその後の変性過程が推測できると期待されます。

2. 反射光の強度からレーザ波長(1064nm)での反射率(albedo)の測定

LIDARは自分で光を発して受光する機器なので、常に同じ入射・反射の条件(つまり入射角も出射角もゼロ)で均一な品質で反射率を測定することができます。表面の反射率の違いは、微小天体の衝突や潮汐力の影響などで表層の物質そのものが入れ替わったり、宇宙風化度の異なる部分が露出したりしていることなどに起因すると考えらえます。したがって反射率の違いからレゴリスの混合過程を知ることができると期待されます。

3. 浮遊ダストからの反射光を検知してダストの有無を調べる

小惑星は質量が小さく、その結果重力も小さいため、衝突や表層更新に伴い初速度を持った質量の小さいダスト(塵)が浮遊している可能性があります。そのダストからの反射光をLIDARで検出して、ダストが小惑星周辺に存在しているかを調査します。特に、「はやぶさ2」で初めて行われる小型衝突体SCI(Small Carry-on Impactor)を用いた小惑星への衝突実験では、衝突によるクレーター形成に伴いダストが舞い上がるため、検出可能性が高いと期待されます。

さらにその先の探査へ

レーザ高度計は固体の惑星や衛星の探査に必須の観測機器です。我が国には「はやぶさ」、「かぐや」の経験があり、「はやぶさ2」は三番目となります。また、将来の探査計画でもレーザ高度計の搭載を提案しています。我々はこれまで培ってきたレーザ高度計技術の資産を生かし、日本そして世界の惑星探査に貢献したいと考えています。