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研究ハイライト

成果報告

天の川銀河の中心の巨大ブラックホール天体で不思議なフレア現象をとらえる

画像 東京大学大学院理学系研究科の大学院生・秋山和徳氏、国立天文台の本間希樹准教授、小林秀行教授らを中心とする研究チームは、国立天文台の VERA とアメリカの VLBA の共同観測から、銀河系中心の巨大ブラックホール天体「いて座A*」で、これまで観測例のない変わったフレア現象を発見しました。

研究チームの観測結果は、このフレアが、巨大ブラックホールに付随している高温プラズマ流全体で何か変化が生じることによって起きたことを示唆しています。
フレアが起きるメカニズムは詳しくはまだ分かっていませんが、このようなプラズマ流全体で起きている現象は、謎に包まれた いて座A* の正体を探る上で重要な手がかりになると研究チームは考えています。


宇宙に存在する銀河の多くは、その中心に太陽の数100万倍から数10億倍というとてつもない重さを持った巨大ブラックホールを持つと考えられています。
私たちの住んでいる天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の重さを持った巨大ブラックホールがあることが知られています。

この巨大ブラックホールには、電波で明るい「いて座A*」という天体が付随していることが知られています (図1)。
いて座A* は数億から数10億度という非常に高温のプラズマガスからの光だと考えられていますが、その正体はいまだはっきりとは分かっていません。
例えば、ブラックホールに今まさに落下しているプラズマガスの降着流を見ているのか、それともブラックホール付近から噴出したプラズマガスのジェットなのかなど、基本的なことが分かっていないのです。
この天体を理解することは、天の川銀河のような一般的な銀河の中心の巨大ブラックホールで何が起きているかを理解する上で重要であると考えられています。

fig.1
図1:銀河系の中心部と「いて座A*」の電波画像

国立天文台が保有する VERA をはじめとした VLBI という観測装置は、その非常に高い視力を活かし、ブラックホールの大きさに肉薄するスケールで いて座A* を見ることができます (図1右下)。ですから謎に包まれた いて座A* の正体を探る上で重要な観測手段の一つです。

今回、研究チームが着目したのは いて座A* の変動性です。
いて座A* は時期によって電波の明るさや大きさが変わることが個別に知られていましたが、これまで電波の明るさと大きさを同時に調べてその関係性を調べた研究は数例しかありませんでした。
このような関係は いて座A* の正体を探る上で重要な手がかりになる可能性があります。

そこで研究チームは、2005年から2008年にかけて、国立天文台の VERA や米国の VLBA を使って いて座A* の観測を行いました。
その結果、2007年の5月に いて座A* が電波フレアを起こしていることが分かりました (図2上)。

fig.2
図2:「いて座A*」で観測された電波フレア

一般的に いて座A* では電波の明るさが数時間から1日の時間スケールで変わることが知られていますが、このフレアは持続時間が最低でも10日以上と非常に長く、これまでに観測された例のない種類のフレアでした。
この観測結果からは、フレア時期の前後で いて座A* の構造や大きさに大きな変化がないこともわかりました (図2下)。

これらの観測的性質は、フレアの原因がプラズマ流内の一部の領域にあるのではなく、プラズマ流全体で何か変化が生じたということを示唆しています。
このようなプラズマ流全体で起きている現象は いて座A* の正体を探る上で重要な手がかりになると研究チームは考えています。

今後、このようなフレアが起きるメカニズムや、その背景にある いて座A* のブラックホール周辺のプラズマ流の構造に迫っていくためには、電波帯の様々な波長帯で VLBI の観測を行い、いて座A* のブラックホールの近くのプラズマが電波帯でどのような "色"(スペクトル) をしているのか、また観測波長ごとにどのような形をしているのかを調べていく必要があります。
研究チームは、2014年3月から本格的な科学運用が始まる日韓VLBI観測網 (KaVA)国際サブミリ波VLBI (EHT) を用いた観測によって、さらに研究を進めていきます。


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