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研究ハイライト

成果報告

大学連携VLBI観測網: 高エネルギーガンマ線を放出する超巨大ブラックホール候補天体の大規模探査に成功

画像
観測された超巨大ブラックホール候補天体(中心の青丸)に対するWISE赤外線画像の例 (出典)

山口大学理工学研究科の大学院生、藤永義隆氏と新沼浩太郎准教授を中心とした研究チームは、VERAを含む大学連携VLBI観測網を用い、高エネルギーガンマ線を放出する新たな超巨大ブラックホール候補天体の大規模探査に成功しました。

研究チームは、未同定ガンマ線源の候補となる845個の電波源に対して輝度温度(※1)の測定を行いました。世界的にみてもこのような大規模探査は前例がありません。

探査の結果、輝度温度が100万度を超える29の超巨大ブラックホール候補天体が検出されました。さらに同チームは赤外線衛星WISE (Wide-field Infrared Survey Explorer)のデータを用いて検出された天体の性質を調べたところ、8天体がガンマ線ブレーザー天体(※2)と呼ばれる特殊な巨大ブラックホール天体である可能性を明らかにしました。

今後はこれらの天体に対して米国のVLBI観測網であるVLBA(Very Long Baseline Array)を用いた多波長観測を行い、より詳細な検証を行う予定です。
また同チームは今回の成功を受けてさらなる大規模な探査計画も進めており、ガンマ線を放出する超巨大ブラックホールの性質を統計的に明らかにしたいと考えています。


高エネルギーガンマ線天体は、2008年に打ち上げられたガンマ線観測衛星Fermiの高感度観測によって、現在までに1900天体も発見されています。そのうち30パーセントは未だその正体が明らかになっていません。
ほとんどは遠方銀河の中心に存在する超巨大ブラックホールだと考えられていますが、それを直接検証するためには、ガンマ線望遠鏡よりも遥かに高い空間分解能を持ったVLBI観測によって、天体の輝度温度を測定する必要があります。

同研究チームは、これら未同定ガンマ線源のうち、観測条件の良い231天体に付随する可能性がある845個の電波源に対して、大学連携VLBI観測網を用いた大規模VLBI探査を実施し、輝度温度の直接測定を行いました。

通常のVLBI観測では、できるだけ多くの望遠鏡で同時に長時間(数時間から1日)観測することで、高品質な電波写真を得ることを目指します。しかし一般にVLBIに用いる電波望遠鏡は他の様々な科学観測も行うため、望遠鏡の数が増えるほど時間の確保が難しくなり、沢山の天体を観測することはとても大変でした。

これに対して同チームは、あえて2つの大口径電波望遠鏡に絞ることで(山口32m(国立天文台/山口大学)およびつくば32m(国土地理院/筑波大学))、高い空間分解能と感度を保ったまま長時間の観測を実現しました。こうした観測では電波写真を得ることはできませんが、1天体あたりわずか数分の観測で輝度温度を測定できます。
これによりVLBI観測の最大の弱点であった観測天体の数を一気に増加させたことがこの研究のハイライトといえます。


※1: 天体の明るさを温度の単位に換算した物理量。

※2: 巨大ブラックホールから吹き出すジェットが我々の方向を向いている天体。相対論的効果によって電磁波の強度が増幅されるため極めて明るい。

fig.1
図1:今回新たに検出された超巨大ブラックホール候補天体からの信号。
縦軸は信号強度、横軸は山口/つくばの両局が電波を受信した時刻の差分に相当し、予想された天体位置と実際に検出されたブラックホール候補天体の位置の差を主に反映している。



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