研究ハイライト
成果報告
超巨大ブラックホールに引き寄せられる水分子のガス
電波銀河は、中心から数万光年の規模で活発に噴出する明るい電波ジェットを持っています。このようなジェット噴出には膨大なエネルギーが必要です。銀河の中心に潜む巨大ブラックホールに星間ガスが落下する時、ガスの持つ重力エネルギーがジェット噴出エネルギーに変換されていると考えられています。
電波銀河NGC4261も明るいジェットを持つことから、巨大ブラックホールの存在が推測されていました。加えてNGC4261のごく中心部では高密度のガスが円盤のように取り巻いていることが既に知られています。これらのガスは、ブラックホールに落下すればジェット噴出エネルギーを投入することができるかもしれません。しかし、本当にこれらの高密度なガスはNGC4261のブラックホールへ落下しているのでしょうか? これまで数光年というブラックホール近傍からガスが落下しているという観測的証拠はなく、この銀河で中心部のガスがジェット噴流のエネルギー源になっているかどうかは推測の域を出ていませんでした。
この問題を解き明かすため、大阪公立大学の澤田-佐藤聡子特任研究員を中心とする研究チームは、東アジアVLBI観測網を用いて電波銀河NGC4261を観測しました。その結果NGC4261の中心から1光年未満の範囲にメーザー輝線を放射する水分子ガスが密集して分布することが分かりました。水分子ガスの分布は、NGC4261の高密度な電離ガス円盤の分布と空間的に一致しており、水分子ガスもNGC4261の中心を取り巻く円盤の一部を構成していると考えられます。さらに水分子からのメーザー輝線のドップラー効果から、円盤内の水分子ガスが中心に向かって運動している瞬間を捉えました。つまり、ブラックホールを取り巻くガス円盤は中心のブラックホールへと落下し、ジェット噴出のエネルギー源となる、というシナリオがこの銀河で観測的に示されたのです。
今回の電波ジェットと水メーザーの観測の他、過去の電離ガス、中性水素ガス、分子ガスの観測結果も含めて、NGC4261の中心部の構造が図2のように提案されました。
本観測には、VERA4局、茨城の高萩32m望遠鏡、韓国のKVN3局が参加しました。これらの望遠鏡によるVLBI観測の安定した性能と高角分解能が、ブラックホール最近傍のガスの構造と運動の検出を可能にしました。現在、VERAは新しい高感度受信機を開発を進めており、この新受信機を用いると観測の感度が向上します。また、KVNは2023年現在4局目のアンテナを平昌に建設中で、観測の感度と撮像性能の高い観測が期待できます。今後のアップデートされた東アジアVLBI観測が、NGC4261のブラックホールへのガス降着機構をさらに明らかにしていくでしょう。
本研究成果は、日本天文学会欧文研究報告 Publications of the Astronomical Society of Japan (PASJ) 第75巻4号に原著論文として掲載されました。この記事で紹介した図2はPASJ本号の表紙に採用されました。
論文著者
澤田-佐藤聡子(大阪公立大学)、川勝望(呉工業高専)、新沼浩太郎(山口大学)、亀野誠二(国立天文台)