研究ハイライト
成果報告
天の川銀河中心の分子雲の“速度計測”に成功
天の川中心の巨大ブラックホールから少し離れた所にある巨大分子雲の3次元位置と速度をVERAによって精密に測定することに成功しました。天の川銀河の円盤部から巨大ブラックホールへ物質がどのようにして運ばれるかを理解する上で必要な情報を与える成果となりました。
天の川銀河は中心近くに棒状の構造を持つ棒渦巻銀河であると考えられています。銀河の外側の円盤部分にある天体は円運動に近い運動をしている一方で、棒構造の影響で内側では複雑な動きが確認されています。特に中心から約300光年の位置には、都市圏を取り囲む環状線のように高密度な分子雲が集中する領域が存在することが知られています。これまで電波や赤外線、X線などの観測を通して分子雲の3次元的な位置関係や運動を明らかにする研究がなされてきましたが定説はいまだに得られていません。この問題を解き明かす手法の一つとして、VLBI観測の高い空間分解能を活かした年周視差測定による距離決定と天球面上での天体の動きである固有運動の測定による3次元速度の決定は重要な役割を果たすと考えられています。
国立天文台水沢VLBI観測所の酒井大裕特任助教を中心とする研究チームは、VERAを使って天の川中心にある分子雲「いて座B2」の3次元の位置・速度を精密に測定しました。いて座B2は天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールから約300光年離れた所にあり、新しい星が大量に生まれている場所です。VERAの特徴である2ビーム観測によって、いて座B2から発せられている水メーザーのモニター観測を行いました。その結果、いて座B2までの距離は約24,000(-5,500/+10,000)光年であり巨大ブラックホールに対して秒速約140キロメートルの速度で動いていることが明らかになりました(図2)。これはこれまでの先行研究で提唱されていた距離や運動と矛盾せず、VERAによる直接的な測定が先行研究を裏付けることになりました。この結果は、天の川銀河の中心周りを分子雲が高速で動いていることを確認しました。
今後、VERAに東アジアの電波望遠鏡を加えた東アジアVLBI観測網を用いてより高感度な観測を行うことで、いて座B2以外の分子雲に対しても3次元位置と速度の測定を行うことができる見通しです。天の川中心にある分子雲がどのように動いているかを把握することで巨大ブラックホールに物質が運ばれていくメカニズムが明らかになると期待されます。
本研究の中心となった酒井大裕特任助教は国立天文台と株式会社 岩手日報社との包括的連携協定に基づいて採用されています。なお今回の成果は、日本天文学会欧文研究報告(PASJ: Publications of the Astronomical Society of Japan)において、“Water maser distributions and their internal motions in the Sagittarius B2 complex”として掲載されました。
論文著者
酒井大裕1、小山友明1、永山匠2、本間希樹1、小林秀行1
( 1/国立天文台、 2/元・国立天文台 )
論文情報
“Water maser distributions and their internal motions in the Sagittarius B2 complex”(外部サイト)