第4回 天体の潮汐破壊

図1. ハッブル宇宙望遠鏡による木星に接近するシューメーカー・レヴィ―第9彗星

図1. ハッブル宇宙望遠鏡による木星に接近するシューメーカー・レヴィ―第9彗星  (NASA  画像番号 PIA17007、クレジット:NASA, ESA, H. Weaver and E. Smith STScI and J. Trauger and R. Evans NASA Jet Propulsion Laboratory)

 

前回まで、潮汐力が天体の変形を引き起こすことと、変形を観測することによって天体の内部構造が推定できるということを書きました。では、潮汐力がとても強いと天体には何が起きるのでしょうか?

天体は、内部の物質同士が重力により引き合うことによって構成されています。引き合う力よりも潮汐力の方が強くなると、その天体は破壊してしまいます。この現象は潮汐破壊と呼ばれます。潮汐力を引き起こす天体までの距離が近ければ近いほど潮汐力は大きくなります。そして、どのくらいまで中心天体に近づくと破壊してしまうか、はロシュ限界(Roche Limit)という距離で表されます。ロシュ限界は、天体を構成している物質同士が引き合う重力よりも潮汐力の方が大きくなる限界の距離で表されます。二つの天体の密度が同じ場合は、ロシュ限界は天体の形状に依存して中心天体の半径の1.44倍から2.46倍という値を取り、さらに中心天体と周回天体の間で密度の違いがあると値が変わります。

1994年、複数の彗星核を持っていたシューメーカー・レヴィ―第9彗星(Comet Shoemaker-Levy 9、図1)が次々に木星に衝突しました。この彗星が1993年に発見された時にはすでにもともとの彗星が分裂して列を成していて、棒のように見えたそうです。軌道計算によると、彗星は過去にロシュ限界よりも近い木星の直径の1.2倍まで接近し、その際、木星による潮汐力によりバラバラになったと言われています。

通常、惑星のロシュ限界の内側には衛星(月)は存在できないので、バラバラの粒子が回っている状態になります。これが土星の環のような、天体を取り巻く環です。ロシュ限界の内側に存在している衛星はいくつかありますが、衛星を構成する物質同士をつなぎとめる力が強いためと解釈されます。

 

(潮汐シリーズはこれで終わりです)