JUICE-GALAチームミーティング(2023.03.01~03)に出席して

2023-04-17

 2023年4月14日,南米仏領ギアナのクール―(Kourou)にあるギアナ宇宙センターからヨーロッパ宇宙機構(ESA: European Space Agency)主導で開発された木星衛星系探査機(JUICE)が無事打上げられました[1]. JUICE搭載機器の1つにレーザ高度計があります(GALA: GAnymede Laser Altimeter;[2],写真1).いわゆるレーザ測距計のことでレーザパルスを発射して目標点までの往復時間を計り距離を測定する装置です.天体を周回する探査機に搭載されたレーザ高度計は,天体の重心に対するレーザ高度計の位置とレーザの発射方向がわかっていればレーザが照射する天体上の位置を決めることができ,これを繰り返すことで天体の地形や形状を精度よく決定できます.打上げ11年後の2034年に予定されているJUICE-GALAのガニメデ周回観測では,ガニメデの形状が木星の巨大な潮汐作用で歪んでいるだけでなく,それが時間変化する様子まで詳しくわかるはずです.さらに最近では氷天体の内部に液体の層(内部海)があると考えられており,GALAの観測データからガニメデ内部海の深さや規模を推定し,氷天体の内部海の存在を世界で初めて明らかにすることが期待されています.

写真1

(写真1)GALAの動作模型(DLR製作)


GALAの開発は,ドイツ,日本,スイス,スペインの4か国の国際協力のもと,ドイツのドイツ航空宇宙センター(DLR: Deutsches Zentrum für Luft- und Raumfahrt)のHauke Hussmann氏率いる惑星測地系のグループが中心になって進められてきました.このグループにはRISEの受託大学院生(東大)の西山氏が今年の3月まで1年間留学しており(留学当時の様子は[3]),5年前にRISEの山本研究員も3か月間研究滞在するなど以前からRISEプロジェクトとは縁があります.GALAの開発で日本側は塩谷氏(JAXA)が中心となり,受光素子(APD: Avalanche Photo Diode) および電子制御系は小林氏(千葉工業大・惑星探査研究センター: PERC)が担当し,2020年7月にDLRに納品しています.RISEではAPDの温度制御に必要な電力の実測データの取得,受光部の排熱に使われるサーマルストラップの柔軟性試験などいくつかの実験で協力したほかAPDの放射線劣化(特に木星周回時)がGALAの測距精度と誤測距確率に与える影響を数値モデル(パフォーマンスモデル)で評価しました[4].


 JUICE打上げを翌月に控えた2023年3月1日~3日,DLRにGALA開発チームが一堂に会し現状確認及び今後の方針を議論しました.このようなGALAチームの全体会は2014年5月に東工大で開かれて以来で関係者一同久々の再会になりました(写真2).参加者は現地で約30人,リモートで6~7人で会議二日目に一人一人自己紹介をしました.日本からの現地参加者は塩谷氏,東原氏(JAXA),小林氏,荒木(NAOJ)の4名です.

写真2

(写真2)GALAチームミーティング@DLR(2023年3月1日~3月3日)の集合写真
(Prof. Hussmann提供)
 


初日にはJUICE/GALA/地上系の最新状況,GALAの開発経緯,性能試験,熱真空試験,総合試験の結果について説明がありました.塩谷氏と小林氏から日本の開発担当グループ(GALA-Japan)の貢献や担当箇所の開発経緯と結果が紹介されました.過去の経緯はともかく打上げを待つばかりになっているので大きな問題は当然残っていません.打上げ一か月後に運用期間(NECP: Near Earth Commission Period)が予定されていて機器の状態について確認を行うことになっています.
二日目には,JUICE搭載のGALA以外の諸機器とそのサイエンス紹介,GALAの性能確認結果と予測される科学観測成果,天体地形名称WGでの議論紹介があり,荒木からGALA測距性能の放射線劣化の影響も説明しました.3月末でDLR留学を終える西山氏もGALAのレーザリターン波形のシミュレーションと表面状態推定への応用について発表しました.
三日目は関連サイエンスのセッションで氷地殻と内部海の力学関連やクレーター統計地形学の講演がありました.予測される現象をGALAだけでなく他の機器の観測結果と比較することが大切で,重力場(3GM:Gravity and Geophysics of Jupiter and Galilean Moons)や地下レーダ(RIME: Radar for Icy Moon Exploration)との連携の重要性を再確認しました.
会議全体のまとめでは,開発を終えて運用やサイエンスが中心となる打上げ後の活動をどのように進めて行くか,DLRの提案をもとに議論され,GALA観測リストの改良,来年の地球スイングバイ時のキャリブレーションキャンペーン,ニュースレターの発行(年一度くらい),グループメンバーの確認とルール,氷地殻など固体流動の計算分野の開拓,アウトリーチ活動,出版計画整理,などを進めていくことが了承されました.また次回は来年の4∼5月に行うことになりました(場所未定).JUICEは打ち上げ後から到着までが非常に長いので事業の継続性のため運用やサイエンスに関心を持つ若い方々に世代交代していかなければなりません.私もJUICEが木星系に到着する2031年には退職しているはずですが,引き続き努力していきたいと思います.


DLRはトレプトウ=ケーペニック区というベルリン東南部(旧東ベルリン側)にあり,そのため旧西ベルリンと比べて町のようすも昔ながらの風情を残しているようでした.特にケーペニック宮殿付近は中世以来の歴史ある町だそうです(写真3).何度も来ている塩谷氏,東原氏,小林氏にいろいろ教えて頂きました.

写真3

(写真3)石畳の街並み(ケーペニック/ベルリン)


 最後になりますが帰国直後にGALAチームでこれまでの開発で重要な役割を果たしていたDLRのReinald Kallenbach氏が亡くなられたとの連絡を受けました.ミーティングではお元気そうだったので非常に驚きました.打上げ直前にさぞ無念だったろうと存じます.謹んでご冥福をお祈りいたします.


[1] https://juice.stp.isas.jaxa.jp/schedule/
[2] https://event.dlr.de/en/ila2022/gala/
[3] https://www.miz.nao.ac.jp/rise/c/news/topic/20230206.html
[4] Araki et al., 2019, Trans. JSASS Aerospace Tech., Japan vol. 17, No. 2, 150-154. doi:10.2322/tastj.17.150

(文責 荒木博志)